↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/16

第13話:美しき勇者



(あれえ……俺、どこにいるんだ……?)


気づけば、魔王は鬱蒼と木々が生い茂る森の中を走っていた。

頭上の葉が光を遮り、昼間でありながら辺りは薄暗い木漏れ日に包まれている。


周囲はどこか神秘的で美しく、剣戟や争いの音などは一切聞こえない。


(それにしても、なんであの勇者っぽい少年があんなに必死になってたのかわかったな……)


走る足を動かしながら、魔王は勇者が発した言葉を思い出していた。

勇者は、故郷の村人たちのためにあんなにも必死になっていたのだ。


(誰かのため、か……)


そうして走り続けると、前方で急に木々が開き、ぽっかりと円形の広場に出た。

その光景に、魔王は思わず息を呑んだ。


開けた空から差し込む一筋の光が、その中心にいる人物を照らし出していたのだ。

そこにいたのは、勇者レニール。

彼は疲れ切った様子で天を仰ぎ、ぐったりと座り込んでいた。

周囲には、先ほどまで襲ってきたのだろう、倒されたオークの死体が三体ほど転がっている。


(——美しい)


魔王は、そのあまりの光景に心を打たれていた。

確かに、勇者レニールは整った容姿をしていた。

だが、彼は今、傷つき、全身ボロボロで、顔も泥や血に塗れている。

もしかしたら既に息絶えているのではないかと思うほど、生気がない。


だからこそ——魔王には痛々しいほどまでに彼が美しいと思えたのだ。


(あ、やばい!)


その時、死んだはずのオークの体がぴくりと動いたのを魔王は発見した。

まだ息があったのだ。

極限まで疲弊している勇者は、背後から迫るそれに気づいていない。

オークが世にも恐ろしい唸り声を上げ、泥まみれのまま勇者へと襲いかかった。


「っ!」


考えるよりも先に、魔王は咄嗟にオークの前に飛び出していた。

直後、ガチリと、オークの鋭い歯が魔王の腕に食い込む感触が走る。

背後で、勇者の声にならない悲鳴が上がった。


「ぐおおおおおっ!」


オークが喉の奥から威嚇の唸り声を響かせ、魔王の腕を文字通り噛み砕こうと力を込める。

しかし、当の魔王は何が何だか分からず、ただただパニックに陥っていた。


(い、いてぇ!? いや待て、噛まれてる!? え、どうしよう!?)


その瞬間、魔王の頭の奥底から、冷徹で響き渡るような低い声が鳴り響いた。


『——往け』


それは、紛うことなき「魔王」の威厳に満ちた声だった。


「グ、グ……?」


オークが戸惑ったように唸り声を弱める。

魔王の腕に食い込んでいた歯が、みるみる力なく萎えていった。

目の前にいる存在が何であるのか理解できず、激しく困惑しているようであった。


「い、いいから行けって!」


魔王が慌てて手で追い払うようにシッとジェスチャーを送る。

すると、先ほどまでの凶暴性が嘘のように、オークは困惑した子犬のように後じさり、背中を向けて森の奥へと逃げ去っていった。


(ふう……よかった……あぶねえええええ! まじで死ぬかと思ったぁぁぁ……!)


冷や汗を拭いながら、魔王は自分の腕をおそるおそる見た。

激痛が走ったはずだが、布が破れて噛まれたような跡がついているだけで、大怪我どころか血すら出ていない。


(まあ、いくら魔人の力が抑制されてるって言っても、流石にこの世界の初期レベルのモンスターの攻撃じゃ、魔王を傷つけることはできないのかなぁ……って、そういや勇者は!?)


慌てて振り返ると、そこには青い顔をした勇者がいた。


「す、すまない……大丈夫か……?」


そう言って、勇者レニールは今にも意識を手放しそうな体を引きずり、魔王の足元へと防ぐように近づいてくる。


(いやいやいやいや、大丈夫かってそりゃあんたのほうだよ!!)


「だ、だだだ大丈夫だから! 動いたらダメだってそんな体で!」

「そんなわけないだろう……! あのオークの牙が、あなたの腕に深く……っ、すぐに、街に戻って治療を……」

「レニール!」


そこに先ほどいたドワーフの少年と剣士が駆け寄ってきた。


「ハルヴァル! 早く聖薬を彼に!」

「わ、わかった!」


そう言ってハルヴァルと呼ばれたドワーフの少年がカバンから瓶を取り出した。


「いやいやいや、俺は大丈夫だから、あんたのほうが明らかにやばいでしょ! 俺よりも彼にやってよ!」

「いいから、黙って腕を出して!」


ハルヴァルは魔王の言葉に耳を傾けずに、血みどろの勇者よりも先に魔王の腕の袖を捲った。

そこには、ただの噛み跡があるだけで、傷跡すらない。


(あ、やべえ……これ、バレる!? ていうか、そもそも俺のこの『魔王』な見た目ですぐに正体がバレるんじゃねぇかあ!!!)


そんな致命的なことに今更気づく魔王だった。


「いやいやいや、これはそのぅ、実際は噛まれてなかったっていうか、奇跡的に浅くてだなぁぁはははは!」

「そ、そうなのか……?」


訝しがる勇者。


「…………っく!」


レニールが胸を押さえて倒れ込む。


「おいおい、大丈夫かよ! おいあんた、早くそれ使ってやれよ!」

「うん、わかった! いいよね、レニール」


ハルヴァルは倒れたレニールを抱き起こすと、瓶に入った水を振りかけた。

水がレニールの身体にかかると、白いミストが立ち上がった。


(うわああああ、すげえええ)


蒸気が消え去ると、先ほどまでの重傷が見るからにマシになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。