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第12話:勇者の冒険

ザビルの闇の扉に呑み込まれたと思った次の瞬間、魔王の視界が開けた。


「……あれえ?」


そこは、どこまでも広がる牧歌的な草原だった。

風が心地よく吹き抜け、青空の下で草花が揺れている。


(ここが本当に勇者のいる場所なのかな?)


首をかしげながら、魔王はふと自分の体を見下ろした。


「……ん? なんか、体小さくなってない……?」


見れば、手足はどこか頼りなく、着慣れていたはずの重厚な魔王の衣装もぶかぶかになっていた。



(力も……全然ないように感じるぞ。まあ、普段から自分に本当の魔王の力があるのかなんてよく分からんかったけどさあ)


魔王は腕をブンブンと振ってみたり、それっぽいポーズをとって魔法を出そうとする仕草をしてみた。


(やっぱり魔法なんて出ないし……)


(そもそも、魔法ってどうやるんだろう。 こないだ実験室で爆発を起こした時は、なんか頭の中で変な声が響いたっけ……。)



「やあ、とわあ……!」



ふと、どこからか剣がぶつかり合うような音が聞こえてきた。


「ん……? なんだ?」


音がする方へと歩いていくと、少年たちの姿があった。


そこにいたのは、まだあどけなさが残る少年たち――そして、相手をしているのはオークの群れだった。


(おおっ、あれが勇者じゃね!?)


相手はそこまで強そうに見えない、むしろ雑魚の部類のオークなのだが、少年たちは必死そのものの表情で剣を振るっている。


(すげえ、なんかめっちゃ冒険っぽいなぁ!)


ドワーフらしき背の低い少年が身の丈以上の盾を持って、オークの攻撃を防いでいる。

オークの斧が振り下ろされるたびに、ドワーフの少年は地面にめり込むほどの衝撃を受けているようだ。


一方で勇者らしき青年ともう一人剣士らしき青年の二人で、その隙にオークへ攻撃を仕掛けるが、オークの巨大な筋肉には刃があまり通らないようだ。


チクチクとした攻撃を繰り返している。


物陰からその攻防を見守るうちに、魔王はだんだんハラハラし始めていた。


(うわ、危なっかしい……! あんなに必死になって……)


泥まみれになりながら必死に戦う少年たちを見ていると、なぜか胸の奥がざわついた。


(ああ、すごく必死なんだなぁ……。死ねば何度でも蘇るらしいけど……そんなこと考えてるようには全く見えないや。命懸けだ……)


――ふと、昔の記憶のようなものが脳裏をかすめる。


(俺にも、あんなふうに必死になってた時があったような気がする。がむしゃらに頑張って……。で、それでどうなったんだっけ? 何も、手にできなかったような気がするな……。これは、どこの記憶なんだろう……?)


胸を締め付けるような、正体のわからない切なさが広がる。 (わからない……)


「――はっ!!」


突然、魔王は現実へと引き戻された。


(って、何浸ってんだよ! 俺って魔王なんだから、オークがやられるのを応援してどうすんだよ! いや、でも少年たちが危ないし……いや、そもそもどっちを応援すればいいんだっけ……!?)


混乱しているうちに、戦いの最中だったオークの一匹が、隙をついて森の中へと逃げ込んだ。


「まずい、あいつが逃げれば、村に被害が出る!」 「まかせろ!」


一人の少年――のちの勇者となるレニールが、血相を変えて一目散に駆け出す。 「レニール、待て! 一人では危険だ!」 「村を危険に晒すわけにはいかないんだ!」


仲間たちの制止を振り切り、レニールはオークを追って深い森のほうへと走り去っていった。


(おっと……! やばい、見失う前に俺もいかないと!)


魔王は慌てて少年たちの後ろを追いかけ、そのまま生い茂る森の中へと飛び込んでいくのだった。

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