第10話:選択肢は二つ
「……なぁ、ザビル」
「なんでしょう、魔王様」
「どうすれば……この運命を変えられる?」
映画の悪役のように静かな声を絞り出しながらも、魔王の心臓は破裂しそうなほど脈打っていた。
「……お前が俺をここへ呼び寄せたのは、それが理由なんだろ。世界の歪みを示して、破滅の演算を見せて……ただ絶望させたいわけじゃないはずだ」
だが、返ってきたザビルの答えは冷酷なものだった。
「——勇者には、勝てません」
「……なんだと?」
「どうあっても、勇者には勝てないのです。それがこの世界の理です。『システム』が勇者の勝利を決定づけている以上、それを覆す術はございません」
ザビルは静かに自らの指先を重ね、冷徹な現実を突きつけてくる。
「つまり、魔王様に残された道は……二つにひとつ」
「二つ……?」
「左様でございます。このままシステムに身を任せ、決められたシナリオ通りに確実な滅びを迎えるか……あるいは、不可能と知りながらも、抗い、足掻き、その果てに滅びを迎えるか……」
ざらりとした絶望が魔王の背筋を駆け上がる。どちらを選んでも、待っているのは「滅び」だというのか。
「……足掻いた先の演算結果はどうなる」
魔王の問いに、ザビルは一瞬だけ言葉を切り、どこか神秘的な笑みを浮かべた。
「それは——未明の世界」
「未明……?」
「ええ。過去、この世界のシステムに対して本気で足掻こうとした者など、ただのひとりも存在いたしませんでした」
ザビルは旋回する結晶の鏡面たちを見上げた。
「誰も足掻いたことがない……ゆえに、その先の事象を弾き出すための数値が足りませぬ。計算しようにも、その先は見えないのです」
「……誰も見たことがない、か」
「この先は、あなた様だけが紡ぐことのできる物語。さあ、いかがなさいますか……魔王様……」
恭しくザビルは頭を垂れる。そのわざとらしい仕草に、まさに悪魔の誘惑に拐かされているような錯覚を覚える。
「だが、どう足掻けばいいというのだ」
(本当のところ。多分魔王なんかじゃないかもしれないし……)
「もしお望みでしたら、あの中に入り、破滅の演算を疑似体験することも可能ですよ」
と言って、ザビルは天井にあるひと際大きな鏡面を指さした。
「疑似体験?」
「ええ、あの世界に入り、実際に体験をすることができます。ですがお気をつけなさい、もしのめりこんだなら、世界に取り込まれますゆえ」
魔王はじっと、大きな鏡面の世界を覗き込んだ。おそらくあれは、まさに破滅の一歩手前というところなのだろう……。
「わかった……考えておく」




