第八話 小さなお茶会
この日も、父の仕事に付き添って王宮へ来ていた。
父が仕事をしている間、いつものように図書館で過ごそうと思っていたのだが――
「ルチ」
聞き慣れた声に振り向く。
そこには、クラウスが立っていた。
「クラウス!どうしたの?」
「父上の仕事について来てるんだが、休憩がてら散歩してた」
久しぶりに会った幼なじみの姿に、ルーチェは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒にお散歩しよう?」
「もちろん」
2人は並んで王宮の廊下を歩き始めた。
クラウスと話していると、不思議と気を遣わなくていい。
そんなことを思いながら歩いていると――
「……あれ?」
前方から、2人の少年が歩いてくるのが見えた。
その姿を見つけた瞬間、ルーチェの足が少しだけ止まる。
「レオルカさま……?」
レオルカも、こちらに気づいたようだった。
その隣には見覚えのない少年がいる。
レオルカより、少し年上だろうか。
「ルーチェ」
「こんにちは、レオルカさま」
「こんにちは」
「レオルカさま……この間、本をそのままにして帰ってしまって。すみませんでした」
するとレオルカはいつものように、自然に笑ってくれた。
「気にしなくていいよ。ちゃんと戻しておいたから」
そして、ルーチェの隣にいるクラウスへ視線を向ける。
「クラウスも一緒だったんだね」
「はい。父の仕事について来ております」
そのとき、隣の少年がクラウスを見て声を上げた。
「……あれ? クラウスじゃないか」
「こんにちは、アレンさま」
「やあ。相変わらず堅いなあ」
「当たり前です」
2人のやり取りを見て、ルーチェは少し驚いた。
「お2人は、お知り合いだったの?」
「うん。昔からの知り合いなんだ」
そう言って、少年はルーチェへ向き直った。
「俺はアレン・ヴァレンシア。レオの従兄弟で、幼なじみなんだ」
「アレンさま……私はルーチェ・アヴェリアと申します」
初めて会う人を前にすると、どうしても少し緊張してしまう。
ルーチェは無意識に背筋を伸ばした。
「よろしく、ルーチェ嬢」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
自分でも分かるくらい、少し硬い声になってしまった。
そんなルーチェの様子を見て、クラウスが首を傾げる。
「ルチ、緊張してるのか?」
「……少しだけ」
「アレンさまは怖くないぞ」
「わかってるわ……」
思わず困ったようにクラウスを見る。
すると、アレンが笑った。
「はは。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。俺も堅苦しいのは苦手だから」
「……ありがとうございます」
少しだけ、肩の力が抜けた。
その様子を見たレオルカがふとクラウスへ視線を向けたが、すぐにルーチェへ向き直った。
「アレンは昔から一緒にいるんだ」
「そうなのですね!」
レオルカにそう言われると、ルーチェは少し安心した。
アレンもレオルカにとって大切な幼なじみなのだろう。
すると、レオルカがふと思いついたように言った。
「せっかくだし、みんなで少しティータイムにでもしない?」
「レオ、まだやること残ってるよね?」
「でも少しくらい休憩してもいいよね? ちゃんとやるから」
「……まあ、レオがそう言うなら」
アレンは少しだけ呆れたように笑った。
レオルカは、ルーチェとクラウスを見る。
「ルーチェとクラウスは? 2人とも時間は大丈夫?」
「私は大丈夫です」
「俺も大丈夫です。まだ時間がありますから」
「そっか。それならよかった」
4人はそのまま、王宮の一室へ向かった。
しばらくして、テーブルの上に紅茶といくつかのお菓子が並べられる。
ルーチェはカップを手に取り、ほっと息をついた。
最初は少し緊張していたけれど、レオルカとクラウスが一緒にいることもあり、少しずつ落ち着いてきた。
しばらくは、最近読んだ本の話をしていた。
「そういえば、ルーチェ嬢って本以外には何が好きなの?」
アレンにそう聞かれて、ルーチェは少し考えた。
「……そうですね……お花のお手入れをしたり、お花を見るのが好きです」
「昔は、顔が泥だらけになるくらい夢中になってたよな」
クラウスがすぐに答える。
「クラウス、よく覚えてるね……」
「まあな」
ルーチェは恥ずかしそうに笑った。
「それから、音楽も好きです」
「音楽?」
「はい。曲を聴いたり歌うことも好きなのですが、ピアノを弾くのも好きです」
「そうなんだ。僕も音楽は好きだよ」
「レオルカさまも?」
「うん」
レオルカは少し嬉しそうに笑った。
「何か楽器を弾かれるんですか?」
「少しだけね」
「少しだけ、ねえ?」
アレンが意味ありげに笑う。
「……何?」
「いや、別に?」
レオルカが少しだけムッとしながらアレンを見る。
そんな2人の様子を見て、ルーチェは思わず笑った。
「仲がいいんですね」
「まあね。ずっと一緒だから」
「そうだね」
穏やかな声だった。
「ルーチェは、ほかには何が好き?」
「えっと……」
少し考えてから、ルーチェはテーブルのお菓子に目を向けた。
「甘いものも好きです。ケーキとかクッキーとか……色々」
「僕も好きだよ」
「レオは特にマドレーヌとパウンドケーキだけどね」
「……そこまで限定しなくてもいいでしょ」
「本当でしょ? 何年一緒にいると思ってるの」
4人の間に、小さな笑い声が広がった。
ルーチェも自然に笑っていた。
こうしてみんなで話していると、いつもの図書館でレオルカと二人で話すときとは、少し違う。
けれど――
それも、悪くないと思った。
ふと、ルーチェはレオルカを見る。
「レオルカさまは、好きな本はありますか?」
「僕の好きな本?」
「はい。今度、教えていただきたいです」
レオルカは一瞬だけ目を丸くして、それから柔らかく笑った。
「もちろん。じゃあ、今度は僕のおすすめを持ってくるよ」
「本当ですか?」
「うん」
その約束が、なんだか嬉しかった。
また一つ、次に話す理由ができた気がした。
午後の穏やかな時間。
4人の小さなティーテーブルには、まだしばらく笑い声が残っていた。




