第七話 僕の知らない君 ―レオルカside―
ルーチェたちが図書館を出ていったあと、レオルカは静かになったその場所で、しばらく立っていた。
先ほどまで、ここにはルーチェがいた。
窓際の席。
開かれた恋愛小説。
楽しそうに話す声。
そして――
「ルチ、帰ろう?」
クラウスがそう呼んだときのことを、ふと思い出す。
――ルチ。
レオルカは、小さくその名前を心の中で繰り返した。
ルーチェには、幼なじみがいた。
自分の知らないところで、ずっと一緒に過ごしてきた人。
クラウス・アシュフォード。
ルーチェが「幼なじみなんです」と紹介したときの、あの自然な笑顔。
それを思い出して、レオルカは少しだけ考え込んだ。
自分は、ルーチェのことをまだ何も知らない。
どんな本が好きなのか。
どんな時間を過ごしているのか。
誰と一緒にいるのか。
知っているのは、図書館で本を読む姿と、話をすると楽しそうに笑うこと。
そして、知らないことを知るのが好きだということくらいだった。
それなのに。
「……もっと知りたいな」
ぽつりと呟く。
なぜそんなことを思うのか、レオルカには、まだ分からなかった。
ただ――
今日、ルーチェと恋愛小説の話をした時間は、とても楽しかった。
歴史の本を読んでいるときとは違う顔をしていた。
登場人物の話をするとき、少し嬉しそうに笑っていた。
あんなふうに笑うんだ。
そんなことを思いながら、レオルカも自然と笑っていた。
ふと、机の上に置かれた本へ目を向ける。
さっきまでルーチェが読んでいた恋愛小説。
レオルカはその表紙を眺めた。
――読み終わったら、感想を聞かせてよ。
自分が言った言葉を思い出す。
次に会ったとき、ルーチェはどんな感想を聞かせてくれるだろう。
そう考えると、不思議と楽しみになった。
ただ1つだけ。
次に図書館を訪れるときも、窓際の席にルーチェがいてくれたらいい。
そんなことを思いながら、レオルカは静かな図書館をあとにした。




