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第六話 久しぶりの図書館

 それから少し時間が経った、ある日の午後。


 ルーチェは、父・アレクシスの仕事に付き添って、再び王宮を訪れていた。


 父が仕事をしている間、ルーチェは図書館へ向かう。


 大きな扉を開けると、静かな空気が広がっていた。


 窓から差し込む柔らかな光。


 高い本棚に並ぶ、たくさんの本。


 ルーチェはその中から1冊を選び、窓際の席へ腰を下ろした。


 今日手に取ったのは、歴史書ではない。


 少し前から気になっていた、恋愛小説だった。


 ページをめくる。


 物語の中では、身分の違う2人が、少しずつ距離を縮めていた。


「……どうなるんだろう」


 思わず小さく呟く。


 先が気になって、次のページをめくる。


 その時。


「……ルーチェ?」


 聞き覚えのある声がしたので顔を上げると、そこにはレオルカが立っていた。


「……レオルカさま」


 ルーチェの顔に自然と笑みが浮かぶ。


「こんにちは」


「うん。こんにちは」


 久しぶりに顔を合わせた2人は、しばらく穏やかに話をした。


 ふと、レオルカがルーチェの手元を見る。


「今日は歴史の本じゃないんだね」


「はい。今日は少し息抜きをしようと思って」


「小説?」


「そうです。最近、少し気になっていた本です」


 レオルカは本の表紙を眺めた。


「面白い?」


「はい!」


 ルーチェは少し嬉しそうに頷く。


「まだ途中なんですけど……2人がこれからどうなるのか、気になってしまって」


 ルーチェは本を抱えるようにして、少しだけ笑った。


「こういうお話も好きなんです」


「そうなんだ」


 レオルカは、少し意外そうな顔をしていた。


 ルーチェはその表情を見て、首を傾げる。


「……何かおかしいですか?」


「ううん。もっと難しい本ばかり読んでるのかと思ってた」


「ふふ……そんなことありません」


 ルーチェが楽しそうに笑う。


「私、物語も好きですよ」


 レオルカも、つられるように笑った。


「今度、読み終わったら感想を聞かせてよ」


「はい。ぜひ」


 また少し、本の話をする。


 歴史の話をするときとは違って、今日は物語の登場人物について話す。


 それが、なんだか楽しかった。


 こうしてレオルカと話していると、時間が過ぎるのが早い。


 そんなことを思っていると――


 図書館の扉が開いた。


「ルチ、いるか?」


 聞き慣れた声にルーチェが振り返る。


「あ、クラウス」


 そこには、クラウス・アシュフォードが立っていた。


「いたいた。おじさまの仕事、もう少しかかるらしい。」


「そうだったの。クラウスはお仕事?」


「まあ、そんなところ。帰る前にルチを家まで送るよう頼まれたんだ。」


「ありがとう。わかったわ。その前に……」


 ルーチェは本を閉じて立ち上がり、レオルカのほうを向いた。


「レオルカさま、こちらはクラウス・アシュフォード。私の幼なじみなんです」


 クラウスはレオルカの前まで歩み、軽く頭を下げた。


「お初にお目にかかります、レオルカさま。アシュフォード侯爵家の嫡男、クラウス・アシュフォードと申します」


「うん。よろしく、クラウス」


 レオルカも穏やかに笑う。


「ルチ、帰ろう?」


「うん」


 クラウスに声をかけられ、ルーチェは頷く。


 それから、ふとレオルカを見る。


 先ほどまで一緒に本の話をしていたことを思い出して、少し名残惜しくなった。


「レオルカさま。またお話ししましょうね」


「うん。また話そう」


 ルーチェは笑って、クラウスとともに図書館を出ていく。


 図書館を出る前に、もう一度だけ振り返る。


 レオルカは、まだそこに立っていた。


 ルーチェは小さく笑って、今度こそクラウスと歩き出した。


 今日もまた、レオルカと話すことができた。


 次にいつ会えるのかは分からない。


 それでも――


 また会えたらいいな。


 そんな小さな気持ちを胸に、ルーチェはクラウスとともに王宮をあとにした。

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