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第三話 君の読んでいた本 ―レオルカside―

 翌朝。


 王宮の一室には、朝の光が差し込んでいた。


 レオルカは机に向かっていた。


 いつものように勉強を始める前に、ふと昨日のことを思い出した。


 王宮の図書館。窓際で本を読んでいた少女。


 ルーチェ・アヴェリア。


「……昨日の子」


 名前を口にすると、昨日の姿が鮮明に浮かんだ。


 王宮を訪れる令嬢は、これまでにもたくさんいた。


 美しい女性も、礼儀正しい女性も。


 聡明で、会話の上手な女性もいた。


 けれど――昨日の少女は、少し違った。


 自分が王太子だと知っているはずなのに、必要以上に近づこうとはしなかった。


 かといって、緊張して距離を取ろうとするわけでもない。


 最初にきちんと礼をして、そのあとはただ本の話をした。


 自分が王太子だからではなく、目の前にいる一人の人間として話している……そんな感じがした。


 そして本の話になった途端、彼女の表情が変わった。


 楽しそうに……もっと知りたい、と言うように。


 それが、なぜか印象に残っていた。


 レオルカはしばらく考えたあと、昨日の言葉を思い出す。


 ――知らないことを知るのって楽しいもの。


「……変わった子だな」


 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


 むしろ、もう少し話してみたいと思った。


 レオルカは机の上へ視線を落とす。


 そして、昨日ルーチェが読んでいた本と同じ歴史について書かれた資料を手に取った。


 ページを開く。


 いくつかの国に残されている、同じ出来事についての記録。


 けれど、国によって少しずつ内容が違っている。


 昨日、ルーチェが話していたことだった。


 レオルカは一つの記録を読み終えると、別の資料を開いた。


 さらに別の資料へ。


 1つ1つ比べていく。


 どうして記録が違うのか。


 どちらが正しいのか。


 そもそも、本当にどちらか一方だけが正しいのか。


 気づけば、レオルカはすっかりそのことに夢中になっていた。


 ふと、父から教えられた言葉が頭に浮かぶ。


 人の話だけを鵜呑みにしないように。

 自分の目で見て、自分で考えなさい。

 そして、自分で判断しなさい。


 だからこそ、気になったことは自分で確かめる。


 それは、昨日のルーチェも同じなのかもしれない。


 誰かから聞いたことを、そのまま受け入れるのではなく。


 自分で知って、自分で考えて……もっと知りたいと思う。


「……なるほど」


 レオルカは一つの資料を閉じた。


 少しだけ考えたあと、別の記録に目を通す。


 やはり、ルーチェが話していた通りだった。


「……面白いな」


 その言葉が自然にこぼれる。


 そして、ふと気づいた。


 昨日の話を、もう一度彼女としたくなっている。


 このことを伝えたら、ルーチェはどんな顔をするだろう。


 きっと、また楽しそうに話すのだろう。


 そう思った瞬間、レオルカの中に小さな期待が生まれた。


 ――もっと話したい。


 昨日より、もう少し……


 歴史のことも。


 本のことも。


 そして、彼女がこれまで見てきた世界のことも。


 いつの間にか、レオルカは本を閉じていた。


 窓の外を見る。


 明るい空が広がっている。


 昨日、彼女と出会った図書館を思い出す。


 窓際の席。


 開かれた本。


 そして、楽しそうに話すルーチェ。


「……また、会ってみたいな」


 声に出してから、レオルカ自身が少し驚いた。


 昨日会ったばかりなのに、どうしてこんなにも気になるのだろう。


 まだ答えは分からない。


 ただ一つ分かるのは――


 もう少し、あの子のことを知りたい。


 そして……もう一度、話してみたい。


 その小さな気持ちが、レオルカの中に静かに残っていた。

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