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【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます  作者: ヴァンドール


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29話(開港式)

 いよいよ、港の開港式の朝を迎えた。

 今朝は早くから、新しい港の誕生を一目見ようと、大勢の領民や商人たちが港を埋め尽くすように集まっている。周囲はお祭り騒ぎの雰囲気に包まれていたが、私の心はざわついていた。


(ルシアン……結局、間に合わなかったな。君は今、本当に無事でいるのか……?)


 昨夜も彼女のことを考えていて、ほとんど眠れなかった。不安と寂しさで押し潰されそうになる心に、気合いを入れる。彼女がいつ戻ってきてもいいように、約束通り、開港式は、何が何でも成功させなくてはならない。


 張り詰めた気持ちで会場を歩いていると、会いたくない人物が目の前に現れた。

 ステファニーが、私の伯父でもある彼女の父親を伴って、祝いの席にやってきていたのだ。関わりたくない一心で、簡単な挨拶だけを済ませてすぐに立ち去ろうとしたのだが、彼女は執拗に付き纏ってくる。


「リチャード様。今日も、あの男爵令嬢はお見えにならないようですわね?」


 わざとらしい笑みを浮かべるステファニーを睨みつけた。


「ステファニー、君には関係のないことだ」


「まあ、ずいぶんと冷たいお言葉ですわね。でも、彼女はもう、この国には二度と帰って来られないのではなくて?」


 勝ち誇ったようなその言い方を不思議に思う。


「……何故、君がそのようなことを知っている風な口を利くんだ?」


「だって、レイモンド伯爵がおっしゃっていましたわ。あの親子はもうお終いだと。よほど裏で汚いお金儲けでもして、まずいことになっているのではなくて? ふふふ」


 そう言って、ステファニーは下品に笑った。


(……やはり、あの男が何かしたのか!)


 腹の底から煮えくり返るような怒りが湧き上がったが、ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。私は殺意を必死に抑え込み、ステファニーを適当にあしらってその場を離れた。


 まずは、不安に思っているであろう工事関係者のもとへ向かう。彼らに「万が一ノートル男爵が開港式に現れずとも、工事代金の残金は国がすべて立て替えてくれることになっている。心配せず式を進めてくれ」と毅然とした態度で説明して回った。

 職人たちの間に安心感が広がり、最悪の事態は回避できたとホッと息を吐く。


 ちょうどその頃、式典の会場にはこの国の重鎮たちが続々と姿を現していた。これほどの大規模な港がどのようなものか、自分の目で確かめに来たのだろう。

 彼らへの挨拶に向かうと、そこでさらに衝撃の事実を告げられた。なんと、この後に国王陛下自らもお出ましになるというのだ。国を挙げた一大行事となったことに、私は父(ダッフル侯爵)と共に、緊張感をもちながらその時を待った。


 そんな私たちのもとへ、ここぞとばかりにレイモンド伯爵が、あしらったはずのステファニーを伴い近づいてきた。


「これはこれは、ダッフル侯爵にリチャード殿。素晴らしい港の完成、心よりお祝い申し上げますぞ」


 白々しく頭を下げるレイモンドの口元には、もはや隠そうともしない下衆な笑みが浮かんでいる。

 男爵が現れないと確信し、我が家が残金を払えず領地を差し出すしかないと踏んだ、蛇のような目だ。


 その時だった。


「おい、見ろ! 向こうから船が来るぞ!」


 警備の者の声に、港全体が騒がしくなる。

 見ると、遥か海の向こうの水平線から、巨大な船の影がこちらへと向かって近づいてくる。

 その船体がはっきりと確認できる距離になった瞬間、周囲の貴族や重鎮たちから、驚愕のどよめきが湧き起こった。 


「な、何だあの船は……!?」


「信じられん、あの金の紋章は……アルファンブラ帝国の、それも皇室直属の大型船ではないか!?」


「何故だ!? 何故、帝国の船が我が国の、それも今日が開港式の港に現れる!?」


 口々に上がる混乱した声を他所に、私はただ、その近づいて来る船の先頭を凝視していた。

 一瞬、心臓が止まったかと思うほど驚く。


(嘘だろ……。これは夢か? それとも幻かか……!)


 帝国の大型船。その先頭のデッキに立ち、晴れやかな笑顔を浮かべてこちらを見下ろしているのは行方不明とされていた、ノートル男爵だった。

 そしてその隣には、あれほど会いたいと願ったルシアン嬢が、いつもの凛とした微笑みを浮かべているではないか。


「ルシアン……っ!」


 声にならない叫びが喉から漏れる。

 それだけではない。何故かその後ろには、自国にいるはずの親友アルベールの姿があり、さらにはリリアーナ公爵令嬢までもが、一緒になって満面の笑みで手を振っている。


 そして、ステファニーはというと、驚きと悔しさが入り混じったような表情でひとりごとのように呟いている。


「何故よ、何故あの女があそこにいるのよ!」


 そして、隣のレイモンド伯爵を見ると、それまで勝ち誇っていた男が、まるで幽霊でも見たかのように血の気を失った顔でガタガタと震え出していた。


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