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【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます  作者: ヴァンドール


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30/42

30話(再会)

 帝国の誇る最新鋭船は予想を遥かに超える速さで航海し、当初の帰還予定を大幅に早めて、奇跡的に式典当日に間に合った。


 ルシアンの無事を祈りながらも、まだ戻るはずはないと、諦めていたリチャードの目の前に、突如として現れた帝国の大型船。

 彼は息を呑み、吸い寄せられるように岸壁へと駆け寄った。


 船の先頭から、まずルシアンが懐かしい自国へと一歩を踏み出す。すると次の瞬間、強い力でいきなり抱きしめられた。


「ルシアン……っ! 本当に、本当によかった……!」


 耳元で響いたのは、掠れたリチャードの声だった。

 ルシアンが驚いて見上げると、いつもは冷静沈着なリチャードの瞳に、ほんの少し涙のようなものが浮かんでいるのが見えた。いや、見間違いではない。彼は本当に、涙を浮かべるほどに彼女の身を案じていたのだった。


 突然の抱擁にルシアンは目をパチパチと瞬きしながらも、ふと思い出した。


(そういえば……わたくし、行方不明のお父様を探しに行ったきりでしたわ。おまけに、アルベール様たちの国を発つ時にリチャード様から届いていたというお手紙、アルベール様がそのまま完全に忘れておいでだったから、お返事もしていないのだったわ……)


 それは生きた心地がしなかっただろうと、ルシアンは心の中で謝罪した。しかし、そこはやはりルシアンだった。すぐにいつもの、斜め上の笑顔をリチャードに向けた。


「お待たせいたしました、リチャード様。でも、もう大丈夫ですわ! ちゃんとお父様を連れて戻りましたから、港の工事代金の最終支払いの件は、どうぞ安心してくださいませ!」


「……え?」


 そこか、という顔でリチャードが呆然と固まる。そんな少しズレた感動的な(?)再会の向こう側では、すでに別の問題が大きく動き出していた。


 いつの間にか式典会場へ姿を現された国王陛下の前へ、ノートル男爵とリチャードの父、ダッフル侯爵が揃って歩み出た。

 男爵は隣国で命を狙われたことから始まり、アルファンブラ帝国で第一王子と直談判したこと、そして締結してきた国家規模の貿易ルートと、これから始まる最新鋭の造船業の話までを、的確に報告した。


 これには国王陛下もとても驚き、強い興味を示された。


「見事な大仕事だ、ノートル男爵。詳しい話は、後ほど王宮でゆっくりと聞かせてもらおう。まずは二人には港の完成を心から祝う。そして……男爵、よくぞ無事に生きて戻り、重責を果たしてくれた」


 陛下から最高のお言葉をいただき、二人は深々と頭を下げた。

 そして陛下が護衛と共にその場を去られた、まさにその直後、男爵の表情から一切の笑みが消え、離れて控えていた手の者に目を向けた。


 そこには、男爵の命令によって、いつの間にか完璧に押さえ込まれていたレイモンド伯爵の姿があった。

 男爵は陛下への報告を始める前に、すでにレイモンドの逃げ場を全て塞ぎ、身柄を確保させていたのだ。


「な、何をするノートル男爵! 無礼であろう!」


 往生際悪く叫ぶレイモンドだったが、男爵のすぐ後ろから現れた人物の顔を見た瞬間、完全に声が止まった。

 そこにいたのは、自分が『二人を始末しろ』と命じたあの隣国の商会長だったのだ。


「き、貴様……っ! 裏切りおったな……!」


 レイモンドはがっくりと肩を落とし、すべてが破滅したことを悟って諦めたように天を仰いだ。

 男爵は陛下の護衛として残っていた騎士団の元へ行き、事の経緯と証拠の書簡を提出して、正式にレイモンドの拘束を依頼した。


「リチャード様! わ、私は何も知りませんわ!」


 それまで隣にいたステファニーは、伯爵が拘束される姿に声を上げ、リチャードに縋ろうとした。しかし、リチャードの冷たい目に睨まれるとそれ以上は何も言えず、悔しそうにその場から逃げるように去っていった。


 港での騒ぎがようやく収まり、静けさを取り戻す中、リチャードはついに我慢できずに親友を睨みつける。


「おい、アルベール。何故お前がルシアン嬢と一緒に船から降りてくるんだ。説明しろ。……いや、その前に手紙の返事はどうした?」


「ひっ、怖い怖い! 睨むなリチャード、これには海より深い事情があるんだって!」


 アルベールは両手を挙げて降参のポーズを取りながら、隣国でルシアンがどれほど活躍したか、そして父と、どう帝国を動かしたのか、これまでの経緯を必死になって説明した。


 話を聞き終える頃には、リチャードの怒りはすっかり彼女への感心に変わり、感嘆のため息を漏らした。


「……なるほどな。ルシアン嬢がそれほどまでに頑張ったなら、お前が側にいてくれて心強かったはずだ。手紙の件は、後でじっくり文句を言わせてもらうが、とりあえずは感謝しておく」


「おい、今嫌なこと言わなかったか!?」


(まあいい、それより第一王子殿下がルシアン嬢を気に入っていたのは今は黙っていた方が良さそうだな……)


 そんな男たちの賑やかなやり取りを他所に、ルシアンは完成した美しい港を見渡し呟いた。


「本当に素晴らしい港ですわ……ここから、たくさんの利益が生まれますのね! これでリチャード様、『円満な婚約解消』もすぐそこですわ」


 やはり、どこまでもルシアンはルシアンだった。



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