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【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます  作者: ヴァンドール


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27話(思惑)

 アルベールに手紙を送ってから、一向に返事がないまま、ただ日にちだけが過ぎていく。

 

(ルシアン嬢は、無事にお父上に会えたのだろうか? それとも、まだ見つからずに必死に探している最中なのか……?)


 いくら気丈な彼女だとしても、こうも時間が経てば、心配で気持ちが沈んでいくに違いない。大丈夫だろうか、きちんと食事は摂っているのだろうか。そんな心配事に心が支配される。


 こんな時に、彼女の傍にいて支えてやることさえできないなんて、なんと不甲斐ないのだろう、悔しさに拳を握りしめた。


 港の工事は、多くの人たちの尽力もあり、予定よりも早く、完成を迎えようとしている。来週には開港式だ。

 だが、問題はそこからだった。


(ルシアン嬢の帰還は、開港式に間に合うのだろうか。……いや、もし間に合わなかったら?)


 確か、工事代金の最終支払いは開港式の直後のはずだ。もしノートル男爵が戻らないとなれば、多額の残金の支払いは滞ってしまう。ようやく元気を取り戻したばかりのルシアン嬢の母上に、今そんな現実を話すべきではない。


(だが、もしもの時は……)


 私は拳を強く握りしめた。

 その時は、我が父(ダッフル侯爵)に侯爵領の一部を担保にしてでも、残金の工面をするしかない。

 どちらにせよ、あのレイモンド伯爵にだけは、絶対に頼るまい。男爵の不在に付け込んで、必ずこの港を含む領地ごと、すべてを奪おうとしているに決まっている。


 いや、万が一の事態に備えるなら、国にも相談しておくのも一つの手だ。

 この港が完成すれば、各国の船が押し寄せる一大交易拠点となる。国にとっても利益は大きい。我が侯爵領のこれから先の税収を考えれば、必ずや立て替えの申し出を無下にはしないだろう。 


「ならば……父上に言って、港の将来の収益権や領地の税収を担保に、国から融資を受けられるよう根回しをしておこう」


 私はすぐに父のもとへ向かい、ノートル男爵が隣国で行方不明になっていること、そしてルシアン嬢が父君を捜すために後を追ったことを説明し、国への掛け合いを頼んだ。話を聞いた父も事の重大さを理解し、「国としても損な話ではない。すぐに動こう」と言ってくれた。


 これで、最悪の事態が起きても大丈夫だ。

 あとは、私にできることといえば、彼女を信じて待つだけだ。


(ルシアン嬢……どうか、どうか無事でいてくれ……) 


 迫り来る開港式を前に、私はただ、ルシアン嬢の無事を祈りながら、完成間近の港の、遥か向こうの水平線を見つめた。


────


「ははははは! 素晴らしい、実に見事な出来栄えじゃないか!」


 同じ頃、完成間近の港を遠くで眺めながら、レイモンド伯爵は不敵な笑みを浮かべていた。

 計画はすべて、思い通りに進んでいる。


「工事関係の連中には、あらかじめ『ノートル男爵は娘共々、隣国で行方不明になったらしいぞ』 とたっぷり噂を流しておいたからな。職人も商人も、残金の支払いは本当に大丈夫なのかと、今頃は夜も眠れないほど不安がっているはずだ」


 レイモンドは、手元にある商会長から送られてきた『二人を共に始末した』と書かれた書簡を握り締めた。

 男爵が戻らなければ、開港式直後の最終支払いは当然ストップする。困り果て、職人たちから突き上げを食らうダッフル侯爵に、「すぐにでも肩代わりしましょう』と言えば必ず飛びつくはずだ。

『男爵が見つかるまでの間だけ』これが味噌だ。これなら安心して縋ってくるに違いない。


「そうして、この港を含んだ部分の領地をごっそり担保に取ってしまえば……あとはこちらのもの。期限が来れば、この莫大な富を生む港は、すべて私の懐に入るというわけだ」


 そう言って不敵に笑う。


「それに、もし男爵の相続が完了して現金を期限までに返しに来たら、その時は、しばらく姿を隠し、期限は過ぎたと言えばいいのさ」


 ノートル男爵たちが隣国で『行方不明』どころか、王室公認の国家規模の貿易ルートを実現し、しかも、しばらくは『入港料無料』という切り札まで用意しているとは夢にも思わないレイモンドは、ただただ自分の完璧なシナリオに酔いしれていた。

 


「せいぜい今のうちに、完成の喜びに浸っているがいい、ダッフル侯爵家め。開港式の当日が、お前たちの没落の始まりだ……! ひっひひひ!」


 自らが泥舟に乗っていることにも気づかず、レイモンドの高笑いはいつまでも響き渡っていた。




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