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第59話:リサとゼノスの再会

 帝都魔導大学の壮麗な白亜の回廊は、夕刻の光を吸い込み、琥珀色に沈んでいる。歴史の重みを感じさせる高い天井と、床に敷き詰められた深紅の絨毯が、再会した二人の距離を残酷なほど際立たせていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:帝都魔導大学・空中回廊】


 講義を終えたアスカを待つ間、リサは回廊の手すりに寄りかかり、帝都の街並みを眺めていた。しかし、背後から響く規則正しい靴音に、彼女の肩が微かに跳ねる。


「……またあなたね。ストーキングは皇帝の公務に含まれているのかしら?」


「手厳しいね、リサ。だが、その鋭い拒絶こそが私の知性を刺激し、帝国を統治するための活力になるのだよ」


 ゼノスはリサの隣に立ち、彼女と同じように夕焼けに染まる街を見渡した。軍服の金の飾りが、西日に反射して眩しく輝く。


「相変わらず変態的な理屈ね。……あの日、私が王都を去った時、もう二度と会わないって決めたはずよ」


「君が私を振った日のことは、昨日のことのように覚えている。……『あなたの愛は、完璧な数式のように美しすぎて息が詰まる』だったかな。……私はね、リサ。完璧なものにしか価値を見出せないのだよ。君という、私の論理を唯一裏切った不確定要素を除いてね」


 ゼノスはリサの方を向き、その長い金髪を優雅に指先で弄ぼうとしたが、リサはそれを鋭く手で払った。


「触らないで。……今の私はアスカの保護者なの。彼女をあなたの退屈しのぎに利用させるわけにはいかないわ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【皇帝の本音と「システムの心臓」】


 ゼノスの瞳から、一瞬だけ遊戯的な色が消え、皇帝としての冷徹な「格」が顔を出した。


「……利用? 心外だな。私は彼女を『完成』させたいだけだ。……リサ、君も気づいているだろう? アスカという賢者が持つ演算能力は、もはや一個人の器に収まるレベルではない」


「……何が言いたいの?」


「帝国は今、巨大な魔導ネットワークを構築している。だが、そのシステムを統合・制御するための『核』が足りない。……アスカの脳を、わが帝国の管理システムの心臓コアに直結させる。そうすれば、この国から貧困も、魔力枯渇も、あらゆる非効率がデバッグされる」


 リサの顔から血の気が引いた。


「……彼女を、機械の部品にするつもり!? あなた、正気なの!?」


「彼女なら、その巨大な責任さえも『合理的なタスク』として完遂できるはずだ。……君が私を拒んだから、私は代わりに、君が守ろうとしているその叡智を、私の永遠の所有物にすることに決めたのだよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【アスカの介入】


「――残念ながら、その提案は私のプライバシーポリシーに著しく反しているわね」


 回廊の曲がり角から、冷徹な声が響いた。 黒髪を夜風になびかせ、白銀のドレスを纏ったアスカが、静かに歩み寄ってくる。彼女の瞳は、これまでにないほど深く、鋭い。


「アスカ……! 聞いちゃったの?」


「ええ。あなたの独白、ノイズが多すぎて遠くからでも聞こえていたわよ、ゼノス。……私を帝国の部品にする? 笑わせないで。……私を制御できるシステムなんて、この世界のどこを探しても存在しない」


 アスカはリサの前に立ち、ゼノスを真正面から見据えた。


「ゼノス、あなたは『完璧』を求めていると言ったけれど、それはただの独占欲の別名に過ぎない。……そんな浅薄な論理で、私をデバッグできると思っているの?」


「ははは! 素晴らしいよ、アスカ。その反抗心、その誇り高い黒髪の揺れさえも、帝国の動力源にしたいほどだ」


 ゼノスは不敵に微笑み、一歩、彼女たちに歩み寄った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン】


 ゼノスの発する威圧感が、回廊の空気を物理的に重く変えていく。しかし、アスカはその重圧を、白銀のドレスから放たれる魔力で真っ向から弾き返した。


「……リサ。部屋に戻りましょう。この男と一緒にいると、私の脳内クロックが不快感でオーバーヒートしてしまうわ」


「ええ……そうね、アスカ。行きましょう」


 二人が背を向けて歩き出す。その背中に向かって、ゼノスは穏やかに、けれど逃げ場のない声を投げかけた。


「……逃げられると思わないことだ。アスカ、君の知性は、いずれ私という運命に収束コンバージェンスする。……私は、君が自らその『心臓』の座を望むまで、何度でも君を説得し続けるよ」


 暮れなずむ帝都の空。 去り行くアスカの黒髪と、それを見送るゼノスの瞳。 二つの知性が、決定的な対立へと加速し始めた瞬間だった。


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