↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/188

第166話:教育の刷新 ―― レオンとカイルの裁定

【舞台:幼稚舎中央講堂 ―― 審判の朝】


 昨夜の喧騒が嘘のように、幼稚舎を包む空気は冷たく澄み渡っていた。 中央講堂。かつては選ばれた貴族の子弟のみが入ることを許されたその場所に、今、帝国の「現在」を象徴する面々が集結していた。

 壇上の椅子に拘束されているのは、昨日の醜態ですっかり生気を失った長老たち。そして正面の扉が重厚な音を立てて開くと、長い影を伴って、一人の青年が歩を進めてきた。


「――相変わらず、派手にやってくれましたね。アスカ様」


 落ち着いた声の主は、カイルだった。眼鏡の奥に理知的な光を宿した彼は、アスカの前で足を止めると、深々と頭を下げた。


「お久しぶりです。……報告が遅れましたが、私は先日、正式に帝国の『宰相』を拝命いたしました。ゼノス陛下……いえ、ゼノス殿の築かれた基盤を、私が引き継ぐことになったのです」


「……カイル。あなた、ついにそこまで登り詰めたのね」


 アスカは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。


「似合ってるじゃない。その、胃の痛そうな椅子」


「否定はしません。ですが、宰相としての初仕事が、これほど痛快な『大掃除』の結果報告になるとは、光栄の至りですよ」


 カイルはアスカから差し出された黄金の石板――エレーヌとレオンが命懸けで守り抜いた不正の証拠――を手に取った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:勇者の決意 ―― 過去との決別】


 カイルの隣には、昨夜の告白を経て、どこか憑き物が落ちたような爽やかな表情のレオンが立っていた。


「よお、アスカ! 心配かけたな。……見ての通りだ、俺はもう迷わねえ」


 レオンは一歩前へ出ると、壇上の長老たちを指差した。


「ジジイども。あんたらの言う『伝統』や『秩序』ってのが、子供たちの可能性を握りつぶして、裏で金を回すことだったとはな。……勇者として、そんなゴミみたいな教育は、俺がこの手で斬らせてもらうぜ」


「な、何を……! 貴様らのような若造に、この歴史ある幼稚舎の何がわかる!」


 長老の一人が声を荒らげるが、カイルが静かに書類を掲げた。


「歴史、ですか。この石板には、皆さんが過去十数年間にわたり、公教育費の三割を私邸の改築と独自の魔導兵器開発に流用していた記録が刻まれています。……さらに、平民出身の優秀な生徒たちに不当な落第点をつけ、再教育施設へ送り込んでいた事実も」


 講堂にどよめきが走る。背後で控えていたミーナやエレーヌも、怒りに肩を震わせていた。


「これより、帝国法に基づき、現行の幼稚舎理事会を解散させます。……そしてアスカ様、あなたのハッキングによって開放された全魔導理論を、帝国の『オープンソース知識財産』として正式に登録します。今日から、知識は血筋ではなく、意欲ある者すべてに開かれるのです」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:ステラの裁定 ―― 非論理的な更新アップデート


「……カイル。その『オープンソース』という言葉、気に入ったわ」


 ステラが、カイルの隣で淡々と呟いた。彼女は手に持っていた銀色のタブレット(自作の魔導端末)を操作し、幼稚舎のサーバーに最後のコマンドを打ち込む。


「解析。これまでの幼稚舎のカリキュラムは、百年前の非効率なデータに基づいていたわ。……私が先ほど、最新の最適化プログラムを適用パッチしておいたわよ。……これで、ミーナたちの成長率は、従来の三四〇パーセント増に改善される計算だわ」


「ステラ……あんた、いつの間に」


 アスカが苦笑する。


「第108号。貴方が扉を開けたなら、私はその先にある『仕組み』を整えるだけ。……それが、居候店員の業務範囲内だと判断したわ」


 その瞬間、講堂の窓から眩いばかりの朝陽が差し込んだ。 カイルの宣言とステラのシステム更新。それは、帝国の教育が「特権」から「共有」へと、完全に解錠された合図だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン:新しい風 ―― 解錠のその先へ】


「……さて。これで私の仕事もおしまいね」


 アスカは伸びをすると、レイやリサたちの方へ歩き出した。


「アスカ様」


 カイルが呼び止める。


「あなたが望むなら、この大学の最高顧問の椅子を用意しますが?」


「いらないわよ。私は古本屋の店主だもの。……それに」


 アスカは振り返り、エレーヌと親しげに笑い合っているレオンの背中を見た。


「……恋の相談役と、勇者の尻拭いで、もうお腹いっぱいだわ」


「あはは! 言ってくれるぜ、アスカ!」


 レオンが豪快に笑い、エレーヌも恥ずかしそうに、けれど幸せそうに微笑んだ。


「さあ、帰りましょう、アスカ。エルムの街も、きっと私たちの帰りを待っていますよ」


 レイが優しくアスカの手を取った。


「ニャー、やっと帰れますニャ! 帝都の魚は高級すぎて、私の舌には合わなかったですニャ!」


 シュシュがアスカの肩に飛び乗る。


 講堂の外に出ると、そこには自由を手にした生徒たちが、新しい教科書を手に、キラキラした瞳で中庭を走り回っていた。 アスカがハックしたのは、ただの鍵ではない。 未来そのもの。

 黄金の陽光を浴びながら、アスカたちは歩き出す。 背後で風に揺れる幼稚舎の旗は、もう権威の象徴ではなく、新しい時代の始まりを告げる帆のように、力強くたなびいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。