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第163話:開錠(アンロック)・オールアクセス

【舞台:幼稚舎中央塔・制御中枢 ―― 賢者の光臨】


 幼稚舎の心臓部にあたる中央塔。そこは、歴代の長老たちが秘匿し続けてきた巨大な魔導演算機が鎮座する、まさに「知の独占」の象徴だった。 だが今、その静謐な広間に、黄金の魔力を纏ったアスカが立っている。


「……幼稚、ね。名前の通りだわ」


 アスカは冷笑を浮かべ、空間に指先を走らせた。彼女の周囲には、ステラの演算補助によって展開された数千もの仮想ウィンドウが、流星のような速度で情報を流し続けている。


「な、何を……!? 貴様、そこから離れろ! そこは帝国の英知が凝縮された――」


 駆けつけた長老たちが絶叫するが、アスカはその声すら「ノイズ」として一瞥だにしなかった。彼女が指をパチンと鳴らすと、床から伸びた黄金の回路が長老たちの足を縛り、その場に縫い付ける。


「英知? 笑わせないで。あなたたちがやっているのは、情報の新陳代謝を止めているだけの『便秘』よ。……さあ、ステラ。この詰まったパイプを、一気にブチ抜いてあげなさい」


「了解、第108号。全回路の並列同期を完了。……あとは貴方が、エンターキーを叩くだけよ」


 ステラの周囲が銀色に輝き、アスカの黄金の魔力と融合する。二人の「元神」と「賢者」の力が合わさった瞬間、世界の理が悲鳴を上げた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:全領域解錠 ―― 情報の氾濫フラッド


「――アウェイク(目覚めなさい)」


 アスカの呟きとともに、幼稚舎......いや、幼稚舎だけではなく、帝都魔導大学全体が激しく震動した。 校舎中の、あらゆる「鍵」が同時に弾け飛んだ。長老たちが「血統」や「地位」で縛り付けていた図書室の扉、学生寮の隔離障壁、そして生徒たちの魔導デバイスにかけられていた閲覧制限。


「あ……開いた! 鍵が開いたよ!」


 隔離されていたミーナたちが、驚きとともに廊下へ溢れ出す。

 だが、アスカの「掃除」はそれだけでは終わらなかった。


「……情報の平等とは、ただ見せることじゃない。誰の手にも届く場所へ、強制的に『最適化』してあげることよ」


 アスカが虚空を力強く掴み、引き絞る。 その瞬間、中央塔から放たれた黄金の光が帝都の空を貫いた。 帝都中の、いや、帝国内にあるすべての魔導端末――騎士団のモニターから市民の家庭用受信機にいたるまで――が一斉に同じ映像を映し出した。

 そこには、レオンとエレーヌが見つけた「裏帳簿」の内容、そして長老たちが隠蔽していた『魔法の基礎理論』の原典が、誰にでも分かる平易な言葉に自動翻訳ハックされて流れ始めた。


「バ、バカな……! 我が一族の秘儀が……帝国内に流出している……! 止めてくれ、やめてくれえ!」


 長老が泡を吹いて倒れ込む。


「止まらないわよ。これは『概念の開放』だもの。一度知った真実を、あなたたちは二度と閉じ込めることはできないわ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:圧倒的爽快 ―― 賢者の演説】


 アスカは、中継されている帝都中の端末に向かって、不敵に言い放った。


「帝国の人たち、よく聞きなさい。……魔法は、選ばれた誰かのための特権じゃない。それは、不自由な世界を自分の足で歩くための『翼』よ。……今日この瞬間、幼稚舎ここの聖域は消滅した。知識を独占し、子供たちの未来を食いつぶす老害どもに、もう居場所はないわ」


 アスカの背後に、黄金の翼を模した魔力の奔流が広がる。その圧倒的な神々しさと、淀みを一掃する清涼な魔力に、帝都中の人々が息を呑み、やがて地響きのような歓声が上がった。


「……やるじゃねえか、アスカ!」


 地下から戻ってきたボロボロのレオンが、エレーヌを支えながら快哉を叫ぶ。


「……第108号。全パケットの送信完了。……これは、事後のサーバーメンテナンスが大変なことになりそうだわ」


 ステラが少しだけ困ったように呟いた。


「いいのよ、それはカイルにやらせれば。……さあ、仕上げよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン:黄金の残光 ―― 新しい時代の朝】


 アスカが指先を空に向けると、幼稚舎を包んでいた暗い「拒絶」の気配が完全に霧散し、美しい夕陽が校舎の隅々まで差し込んだ。 それは、偽りの権威が崩れ去り、真実の光が地を這う者すべてに平等に降り注いだ瞬間だった。


 中庭では、ミーナが自分のデバイスに表示された『最新の教科書』を抱きしめ、涙を流しながら笑っていた。


「……ねえ、レイ。あの子たちの顔、見て」


 アスカは、傍らに立つレイに静かに語りかけた。


「ええ、アスカ。あなたが今日開けたのは、扉だけではありません。……この国の、未来の可能性を解錠したんですよ」


 レイが優しく微笑み、アスカの小さな手を握る。

 アスカは照れくさそうに顔を背け、それでも満足げに空を見上げた。


「……ふん。恋のハッキングよりは、よっぽど簡単だったわね」


 黄金の余韻が水都の運河に反射し、キラキラと輝いている。 勇者の恋、そして賢者の大掃除。 帝都魔導大学付属幼稚舎という名の「古い箱」は今、新しい風を迎え入れるための器へと生まれ変わった。


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