第四十六話 平和な違和感
――『最上萌』の視点――
金沢は部屋から出て、外に出る扉の音がした。私は千里兄ちゃんのように縛られていないし、割と居心地いいベッドに座っている。
まったく……金沢はなにを企んでいるんだろう。まさか私を眠らせて、後悔しちゃったとか? いまさら私と仲直りしようとしているの??
「ねむーい……」
早く寝たいな。もう夜の三時……もうすぐで日が出てきそうじゃん。
私は自由に動き回れそうだけど、外に逃げ出すつもりはない。疲れた状態で逃げても捕まえられるし、もう寝たい。
数十分後、カチャ。
扉が開く音がした。そして金沢はビニール袋を部屋のテーブルに置いた。
特大明太子おにぎり……コンビニで売っている中華のマーラータン。ほんとうに私の要望通りに買ってくれた。
「萌さん、食べてください」
「ありがとう……いっしょに食べよ?」
「へぇ? え、まあ、その……いいです、よ? 僕でいいのでしたら」
「なんか緊張してない?」
金沢の顔がいちごみたいに赤い……声も急に震えてきたし、目が泳いでいる。なに考えているんだろう。
「緊張してません! はい…………いただきます」
マーラータンは温められていて、蓋を開けると唐辛子の香りがぷあっと広がる。
金沢は二つ割り箸を割って、片方をそっと私に渡す。
「食べてください……いっしょに」
いっしょに、と言っているときの金沢の声が低くて小さい。なにドキドキしているかわからない。
金沢はもぐもぐと、野菜を口の中で噛む。
「んじゃ私も、いただきます」
ハムッと、私は豚肉を口に入れる。肉の香りと辛い感覚が口中で踊る。
「おいしい……」
「よかったです…………萌さん」
「なあに?」
「好きなタイプはなに」
「は」
いきなり好きなタイプ?? この人の脳みそどうなってんの?? なにがしたいの?
「気にしないでください……ただ、敵である萌さんについて知りたいなって」
「私のこと好きかよ!」
「違いますって! 好きじゃ、ないですから」
隠すの下手すぎだろ! 目を合わせてくれないし。それに察した私もなんなの。知りたくなかったんだけどぉ!
てかそもそも、なんで私のことが気になったのかよ。金沢って、姉ちゃんのことが好きなんじゃないの?
「そんな目で見ないでください! マーラータン、僕が全部食べちゃいますよ?」
「そ、それはヤメテ!」
――一方、泉千里の視点――
「泉くん……私のことなんか、許してくれるの?」
「今回は俺の責任もある。これから、ゆっくり話そうか」
「うん……」
とりあえず玉緒さんを帰らせて、俺は明里さんの元に近づく。
「なんで許してくれたんですか?」
「そうだね、咲良の命に関わる話だけど、それでも泉くんは許そうとしたでしょ? 咲良の親である私の次に彼女のことを大切に思ってる人だから、信頼してるよ」
つまり、俺が玉緒さんを許したから、明里さんも。まったく、最初は怖い人だけど、めっちゃ冷静な人じゃん。
「そういえば、どうやって最上さんが危険なのか知ってるんですか?」
明里さんはアゴに手を当て、深く頭を考えさせた。
「うーん……なんか知らないメールがきてたの」




