第四十三話 天才vs天才
――一方、『最上萌』の視点――
ハァ、ハァ、ハァ……荒い息が止まらない。肺が痛む……足がパンパン。
私ったら足遅いし、体力もない。彼が本気で走れば、私が金沢に追いつける確率はゼロ。
でも、それでも私は金沢を追う。
もう深夜近くになり……そろそろ寝たい。光が当たらない小さなストリートに入り、金沢の姿が見える。
「…………ついてくると思いましたよ」
「ハァ……ハァ、しっ、てるよ。ばーか」
「口が悪いお嬢様ですね」
金沢はペースを落としていた。走りのフォームはジョギングに近くて、私と数メートルの微妙な距離を置いている。
ここまでついてきたとは言え……私はただ彼は私を誘っていることしかわかっていない。なにを私に言いたいのかが知りたいだけで来た。
彼は賢い人だ。私に手を出して犯罪をおかすわけない。
「どうしても咲良さんを僕にくれないでしょうか? 痛い目、くらいますよ?」
「お手並み拝見、としか言えないよ」
「…………」
さあ、金沢……どう手を出す、なにをする? 貴方の答えが知りたくて、ワクワクしてきた。
心臓がドキドキして、頬が熱い!!
◇
「――面倒なこと起こしたら、君の力で彼を止めてやってくれ」
◇
私の力で、止める!
「このまま僕が逃げても追いかけられ、萌さんが警察に報告すれば僕は捕まる」
うん、うん! そうだ、そうだよ。
どうするの……金沢。
「仕方ない、下策を使う。萌さん、ここ、どこか知ってる?」
暗くて小さな道……初見だし、正直こわい。金沢の姿がかすかな光に照らされて、彼のシルエットしか見えない。
「なにをするつもりなの?」
「僕は痕跡を残さないことが得意んだ。だから……!!」
金沢は低い姿勢をとって、私に向かって走り出す。そしてポケットの中から一枚のなにかを取る。
「なっ――」
「寝てもらいますよ……」
私の鼻元がタオルに覆われ、なんとも言えない複雑な匂いがする。
眠い……指一本も動かない……倒れる、まずい。
このまま倒れると、どっかの小石に頭がぶつかって……!!
しかし私は、その後の記憶を覚えていなかった。
――一方、泉千里の視点――
「全部俺が悪い」
最上さんも玉緒さんも「え」と訴えている顔をする。パカンと口を開いて、まばたきを忘れている二人。
「玉緒さん……俺って恋愛したことなかった人だ。俺が早く君に気づけばよかったのに。許してくれ」
「泉、くん……」
ポロポロと、地面に玉緒さんの涙が垂れる。
「でも最上さんに手を出したことに許す気はない。彼女はなにも悪くない……でも、少なくとも……」
俺はハアッと息を吐き、心が針に刺されたかのように痛む。かつて最上さんは俺を気遣ってくれたのに、俺は気づかなかった。
そして今、もう一人の女性は狂うほど自分のことを思っているのに、俺はずっと気づかなかった。
「玉緒さん……これから――償わせてください」




