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 いつもは真っ白なワイシャツに黒のベストを羽織り、髪を縛っている戸塚が、肩の上まである髪を下ろし、モスグリーンのサマーニットを着てスマートフォンを片手に改札前の壁に背をもたれかけさせていた。タッパがあり脚も長いので、なかなか絵になっている。俺はそっと近付き、スマホの向こう側へ姿を現わすように小さく飛び出しながら、小さな声で「わっ」と声をかけてみた。


「わっ」


 案の定、戸塚は肩をびくつかせ、ついでに指先から青のシリコンカバーをかけたスマホを落としそうになる。二人して指先をわたわたとバタつかせ、なんとか、戸塚の手から落とさずに済んだ。


「ご、ごめん」

「いいですよ、すみません、なんか」


 あはは、と眉を下げて笑う戸塚はどこか子どもっぽく、俺もつられて笑った。柔和な顔立ちの彼が笑顔になると、いつも穏やかな気持ちになってしまうのだった。


「今日はなんですか。ヨドバシですか」

「そうそう、手頃な場所がわからんでなあ。トイザらスとかでもよかったんやけど、こっちのが店の方が好きやって言うねん。その人」

「なるほど。俺も詳しくないんですけど、家電量販店に子どもの玩具とか売ってるんですね」


 ふんふん、と鼻を鳴らす戸塚の顔はどこか小さく企んでいるようで、きっとバーによく来る子持ちの客やその筋のマニアの客との営業トークにでも使えると思っているのだろう。つくづくこの子は抜け目がないといつも思う。


「というかごめんなあ。今日も仕事あるのに。付き合わしてもうて」


 すぐそこの家電量販店に脚を踏み入れると、果てしなく広がるフロアに圧倒された。どこへ行けば目的のものたちを手に取ることができるのだろうか。


「いいですよ、いいですよ。今日は仕事あるけど明日は休みなんで。一日中寝てられます。マスターに『寝太郎は体に悪い』って少し怒られますけど」


 戸塚も歩き方がわからないのだろう、戸惑った表情をしながらも、俺の我が儘を気にしていない様子で、いつもののんびりした声だ。


「まるで親みたいやね」

「全く。年齢的には歳の離れた兄貴とかになるんですかね」

「戸塚くん自身は長男やけどね」

「ふふ。……あ、こっち行きましょう」


 無意識か、パッ、と俺の左腕を取って引っ張られた。向かう先には案内板が見える。


「なんか……別館、にあるみたいですよ。そこの四階に行けばいいみたいです。一回外に出た方がいいですかね……」

「わからんな……方向音痴やからこういうのどうやって見たらええんかわからん」

「慣れた道ならどれだけ入り組んでても行けるんですけどね……」

「それわかる」


 案内板の前で右手を顎に当てて首を右の方へ傾けてから戸塚の方を見遣ると、戸塚も全く同じ手で顎に手をやり同じ角度で首を傾けていた。俺の視線に気が付いたのか、戸塚と目が合うと、全く同じ仕草をしていることに気が付いて、二人して吹き出し目尻に皺を寄せて笑う。取り敢えず、一旦外へ出て目当ての別館とやらを探してみることにした。


「地元のヨドバシでもわからんもんなあ」

「そうなんですか」

「そう。あ、でも、随分行きやすうにはなったで。昔はえらい大回りして、一旦遠い場所まで横断歩道渡ってから向かいよったもんや」

「えー、俺なら諦めちゃいます」

「せやろ。今なんか駅の連絡通路から橋渡って一直線」

「極端ですね」

「そうなんよ。あの橋見たときは感動したなあ」

「街並みが変わってくって寂しいですけど、そういう、面倒だった場所の小さなバージョンアップとかなら嬉しいですね」

「な。寂しさはあるよなやっぱり。……あ、え、こんなところにあったんや。気付かんもんやね」


 大回りして見付けた黒々した看板には、白文字で目当てのものがあるという旨の文字が踊っていた。「別館」と名乗りながら、本当に「別」の場所にあるもんだ。戸塚も驚いたのか「ほー」と口を丸く開けて店を見上げた。



 目当ての玩具のパッケージたちに手を取り、スマホで情報を確かめて色々と照らし合わせていると、俺の中の少年心が疼きあっという間に時間が溶けていく。戸塚が待っているのをふっと思い出しそちらの方を見ると、彼は指人形サイズの女児用の玩具を手に取りジッ、と見詰めていた。

 ある程度知識を頭に擦り込んだところで戸塚に声をかけ、何も買わずに店を出た。財布を開かなかったのは、一つ手を出したら納得するまで買ってしまい、置き場に困っている自分が目に見えたからだ。そして、流れで世界堂にも足を運んだ。

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