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31 - 2

 食事が終わり一人ずつ会計を済ますと、村瀬はホテルのフロントの方へ向かわずにそのまま部屋へと続くエレベータに乗った。何の説明も無しに付いていくだけの俺の気持ちは考えられていないのが手に取るようにわかった。


 音を立てることなくスムーズに上がっていく箱。ボディバッグのベルトを握る手のひらに汗が滲んだ。真っ昼間のためほとんどの部屋がチェックアウトを済ませているか、それとも連泊で引きこもるか出掛けているかなのだろう、エレベータには誰も乗ってこず、二人きりで三十階に到着した。

 見慣れた長く続く廊下を一度左へ曲がると、それから二番目に辿り着いたドアの前で村瀬は立ち止まる。革のクラッチバッグからカードキーを取り出しドアの横へそっと近付けた。


 開けると、いつもの光景が広がった。男二人での宿泊。ツインの部屋である。さらに、まるで知っているかのように同じタイプの部屋だ。まさかミチルが村瀬に言っている訳はあるまい。すぐそこに見えるテーブルに村瀬がバッグを放るのをよそに、俺はボーッと辺りを見回した。少し違和感があった。何故だろう。


「小野上」


 初めて自分に対する声掛けが村瀬の口から聞けた。ハッとして村瀬のほうを見遣った。と、思うと腕を掴まれた。


「とりあえず、お前、ここに隠れてろ」


 グンッ、と引っ張られ押し込まれた先は、ベッドの真ん前にある、分厚いカーテンの中。ガラス窓が肩にギュウ、と押し付けられた。びっくりして少し目を見開き村瀬の顔を確かめると、その瞬間、フッと鼻で笑目撃してからカーテンが閉まった。

 部屋の中から向かって左側に俺は押し込まれ、気付けば俺の隣には植木が立っていた。こんなもの、ここでは今まで見たことがない。村瀬が勝手に置いたのだろうか。そして思い出した。部屋に入って感じた違和感は、不自然に膨らんだカーテンの左側と、右側に置かれた同じ観葉植物の存在だったのだ。そういえば、このカーテンも不自然に長い。余って床に数センチ垂れている。


 パタン、と音が聴こえたのでチラ、とカーテンを細く開けて顔を出してみると村瀬は外に出たようで、部屋の中がしーんと無音になった。「隠れてろ」と言われたが、何に対してどう隠れていればいいのか。思案しても分からず、――いや、本当はもう分かっているのではないだろうか――もやもやとしながら顔を引っ込め、ただひたすらに待った。



 ドアの向こうから二人の男の声が聴こえ、「やっぱり」と思いながら、やはり唐突さに肩を跳ねさせて驚いてから、固まった。カチャ、と音がすると、ミチルと村瀬の声が鮮明に聴こえてきた。


「んっ……もう、明……」

「ははっ、可愛い」

「やめろ」

「痛ってえ」


 楽しそうだ。純粋に恋し合うような声。俺にはあまり聴かせてくれなかった。ミチルがこうして幸せにしているのが、俺の、ミチルに対する何よりの願いだった。ただ、もう二度と耳にする筈のなかったその声に、心が落ち着かずに目を閉じた。

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