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 確かこの辺りよな、とローソンの前でタクシーを止めてもらった。


「ありがとう。釣り、ええわ」


 目を細めて穏やかな声を作り、やり取りを少なくするためにサッと車内から身を引いた。コンビニの前に止めてもらったが何を買うでもなく、うろ覚えの順路を辿って二度ほど同じ道を通ってから目的の地に辿り着く。ここに来るのは確か三、四年ぶりだ。ミチルと離れた時期よりは少し前だったような気がする。

 ミチルが中学を卒業し、施設から離れてから住み始めて今も住んでいるこのマンションは、築十年は超えていると伺えた。グレーの壁が冷たい印象を際立てた。そのB棟、301号室にミチルの部屋はあった。


 呼び鈴のボタンを押すと、ピーン、と鳴り、離すと、ポーン、と鳴った。地味にこういう仕組みが愉しくて唇が微かに緩む。すぐにトストス、と足音がして白みがかった緑の扉が開いた。


「道也。タクシーで来てくれたの」

「それ以外どうやって来るねん、この時間帯」


 揶揄うように言いながら首に腕を巻き付けてくるミチルの声色は、いかにも甘えていて、嬉しさが滲んでいた。

 さして身長は変わらないが、線が細いせいでミチルの体は一回り小さく感じる。俺は焦げ茶色のノーカラージャケットを半分脱いでから、上下共に七分丈の緩いグレーの衣服を身に着けたミチルの背中に手を回した。

 抱き締め合ってよたよたと足を運ぶ室内は、記憶とさして変わらなかった。白い壁紙に白いテーブル、白いクローゼット、白いベッド、白い布団。毛布とカーペットだけが薄いベージュだ。

 スン、と首元から変わらずムスクの香りがした。自分の唾液の臭いで上書きしようと、撫でるように舐めた。

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