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駅の近くのマクドナルドで落ち合おう、と約束したものの、相変わらずこの都市にある駅たちは出口が多すぎて分からない。スマホに元から入っていた地図アプリを見てもさっぱりで、しかし、今出たところが、目的地から一番遠いということだけが分かった。工事途中で、元々道が入り組んでいるらしく、白いついたてのせいで更に入り組んで見えるので上を見ても横を見ても分からず、同じ場所をぐるぐるぐるぐると歩いている気がしてきた。
不安だ、と顔を上げると、ちょうど道を挟んで向かい側に赤の背景に黄色で「M」と描かれた看板が目に映った。ホッとして、「今着いた」とSMSを道也に送った。列に並んで適当にシェークを買い、二階に上がるとすぐそこのカウンター席に道也がいた。
「ごめんな、忙しいのに急に誘ったりして」
右側に座り、カップを置くとわざとらしく両手を合わせてみせた。道也は目尻に皺を寄せて笑った。愛嬌がある笑顔は流石アイドルだ。
「ええのええの。言うたやんか、今日明日休みやって」
「こんな偶然、あるんだな」
「ふふ、ほんまやね」
道也は柔らかく笑って、箱から大きなハンバーガーを出すと、ギュ、ギュ、と潰してから齧り付いた。ふとトレーの上を見ると、空になったポテトの容器の隣に、くしゃくしゃになった薄い紙が転がっていた。
「道也、もしかしてこれ、二個目。だめだよ、また太るよ」
「ええのええの、ツアー終わったし、ドラマも映画もないし、ええの」
道也は能天気にバクバクと食べ進め、手の中はあっという間にもぬけの殻になった。なんとまあ。溜め息が出る。
「これで、後から痩せにくい、痩せられないって言うんだから仕方ねえよなあ」
「自己管理、大事なんわかってるんやけどな。欲望には抗えへんで」
「言い訳だろ」
シェークのストローを軽く噛みながら肩を竦めて笑ってみせた。
「まあな」
道也も眉尻を下げて笑った。
「でもまあ、なんで下北沢なんかに」
「欲しい小物と行きたい古着屋があって」
「ふーん」
訊いといて何だが「どうでもいい」と言うように鼻を鳴らした。しかし、次の言葉を聞いてシェークを飲む口が止まった。
「それと、舞台観に来てさ。後輩の。S@Hって知ってる。カサイで今一番推されてるグループなんやけど」
「んんっ、けほっ……カサイ。二十代のグループの」
適当に訊いてみると、おや、と珍しそうに目を丸くしてからその目を細めて、
「そうやね。五人組や。最年長が二十六やから変わらんと思うよ」
二十七の俺が言うのも何だが、三十代半ばのおじさんの言う一、二歳の「変わらない」の感覚は、まだ俺には備わっていない。職場の後輩ですら、二つ違うだけで何を言っているのかわからないときだってあるのに。しかし、単に俺が流行りに疎すぎるだけのせいかもしれない。言うと、
「そんなもんなんかな。俺もミチルくらいの頃はそうやったかもしれん。忘れてもうた」
と、恥ずかしそうに、少し哀しそうに笑った。
「……おじさんって言ってごめん」
「あはは、ええのええの」
もしかしたら、加地が出ているかもしれない。だからと言って道也に誘われた手前、観るのを拒否するなんてことはできない。遊ぶこと自体は俺が誘ったんだし、帰る意味もない。仕方がないのか。どうか、その後輩とやらが加地ではないことを祈った。
駅の周りには所狭しと言いたげにぎゅうぎゅうと色んな店舗が並んでいた。ゲームショップがあるかと思えば古着屋、たこ焼き屋、ピアス専門店、シューズ専門店……。中には詳しくない俺が見ても分からないような店もあったのではないだろうか。
そこから少し離れると、その窮屈な空間が嘘のように、ごくごく普通の住宅街が見えた。そちらへ出る前に、いかにもチェーン店っぽい古着屋が立っていた。色々な系統のものが豊富らしい。
店先に吊られているこれは……スポーツウェアだろうか。随分くたびれているが、これを欲しい人間がいるのか。その隣にはなんとまあ高級そうなコート。ベルベットだろうか。しかしこれもくたびれている。もう、着ると窮屈になりそうなくらいくたびれているのに、こんな風に売られている。なんとまあ、古着も古着でご苦労なこった。
「ミチル。入ろ」
「ごめん、今行く」
25,000円と書かれた値札を摘まみ呆気に取られていると入り口近くの道也に声をかけられた。今見るとその道也も、くったりとした大きなズボンを履いていた。




