22 - 1
初対面の男が、繰り返し、俺の名前を呼ぶ。俺の嘘の名前を。相手だって、きっと嘘の名前をこちらに提示しているのだろう。それでも、俺たちは名前を呼び合って、惹かれ合ったふりをする。深く繋がった気になれる。だがしかし、深く繋がれるのは体だけだ。この体の熱と熱とが引っ付いて粘膜を溶かし合い、二人で一つになれた気分でいられる。だがしかし、「気分でいられる」だけ。どれだけ片方が想っても、体しか繋げることはできない。
「心が熱くなる」とは言うが、心に粘膜はあるのか。あるのだとすれば、きっとそれは、執着だ。粘着質な粘膜と粘膜を曝け出し合って擦れ合い、繋ぐことができるのだとしたら。心と心が本当に二人で一つになれるときは、粘着質な執着を晒し合うしかない。
しかし、それでも俺は求める。もっと、もっと多くの人と、繋がって、その瞬間だけでも認められたい。人間の熱と熱とをくっつけ合って、確かめ合って、その瞬間だけでも俺の存在を認めていてほしい。
ちゃんと、生きているって。
「……ミチル」
「……あっ、うん。何」
「何って……ミチルは、こういうの、何年続けてきたわけ」
「何年……十八になってからだから、七年くらいじゃないかな」
嘘だ。七年、なんてただでさえ長い。こいつだって馬鹿じゃないのだろうし、俺の実年齢もアプリに登録して表示しているから計算してわかるものだろう。そこを敢えてつっこまないのが、余計な話にならずに安心する。もしくは、実年齢なんて興味がなくて、逆算して二十五歳だと今初めて知ったのだろうか。そもそも、始めたのは十六からだ。そして俺は二十七だ。
「長えな。俺は二、三年かな。いや、最近色んなネコに会うことが多くてよ、最近なんか――……――。あとは――……」
出た、タチの経験値高い自慢。大体はやることにしか興味がない人ばかりなのだが、たまに、こうして、需要が高いからといって鼻が高く育ってしまった人間がいるもんだ。一通り聞いてやり、溜め息混じりに笑った。
「まあ、モテたって上手くいかないこともあるしな」
「そうな。だからさ、上手くいった記念に、最初で最後のセックス。第四回戦の最終ラウンド、入ろうぜ」
「はは、またそんなつまんねえこと言って」
「おりゃっ」
「あはは」
何が「おりゃっ」だ。加減を覚えてほしいものだ。明日は昼から仕事なのに。




