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いつもはお粗末に並べられている街路樹に、赤やら黄色やら青やらの、小さなLEDライトの球がぶら下がった線が巻き付けられているのを横目に、歩行者道路を歩く。クリスマス前の日曜ということもあってカップルや子ども連れが多く、どれも暖かく、幸せに包まれて見える。きっとその暖かさを家に持ち帰るところなのだろう。そんな様子を微笑みながら眺め、ガラス張りにシャンデリアが豪華に光るロイヤルホテルの出入り口をくぐった。
入ってすぐ出迎えてくれるもみの木には、大きさよりも、この季節が来る度に新しく運ばれることに驚かされる。案内板を通りすがりに眺めてから地図の通り歩くとすぐにエレベータの前に辿り着いた。丁度そのタイミングで、ポーン、と音がして扉が開いた。五、六人ぞろぞろ降りていくのを見てから待っていた俺含め五人が中へ入った。俺は隅っこの方へ寄ってノーカラーコートを脱いだ。
十三階。八人のうち三人が降りていくのに俺も距離を開けて付いていった。ウェイターに「ご予約はお済みでしょうか」と訊かれ、
「先に入っている者がいます。村瀬で」
「承知しました。それではご案内いたします」
と、サッと別のウェイターが入ってきてコートを預け、導かれるがまま歩を進めた。丸テーブルには明が席に着いていた。
「よお、満」
「よ」
片手を挙げて近づくとウェイターが離れていき、俺は向かい側の黒い椅子に座った。木製だ。
「今日も寒いな」
あまり来ないタイプのレストランに少し照れくさくなって、キョロ、と一瞬見渡してから曖昧に笑った。
「寒いな。遠目で見てたけど、お前、マフラーしてなかったろ」
「うるせえな。忘れてきたんだよ、最近なくしたし」
「またか。こないだはベルトなくしたろ」
「え、なんで知ってんの」
「ボロいベルトつけてたし。いつもと違うって思ったから」
「よく見てるな。気持ちわりい」
「そりゃ見てるよ。ベルトなんか特に」
言われて、耳に熱がこもった。本当に明は、全部全部、俺のことを全部見てくれている。それが嬉しくて泣きそうになることもある。
「そ、そうか……。それを防ぐために部屋はいっつも綺麗にしてるのになあ。どこに消えてくんだか」
「そうだよなあ。俺のグチャグチャな部屋とは大違いだ」
「とか言って、一ヶ月後にはハウスキーパーにどうにかしてもらってるくせに」
「まあな」
ウェイターがそっとやってきて、二人に一枚ずつメニューを渡してきた。黒い板を開くとそこには「本日のメニュー」と書かれていた。
「お飲み物はいかがなさいますか」
「じゃあ……」
ウン年ものの何かを、と言う明に、ウェイターはにっこり愛想笑いを送った。そっとメニューを閉じるとウェイターに渡し、その背中を見送った。
「明はさ、最近どうなの、仕事」
「仕事か。うーん、可もなく不可もなく。強いて言えば、仲の良い同期が異動すんだよなあ」
「異動。地方か」
「そう。福岡だってさ」
「遠いなあ。でもたまに遊びに行きゃいいじゃん。ラーメン美味いらしいし」
「そうじゃないんだよな。仕事終わってからの一杯、がしたいんだよなあ、あいつと」
「そんなに仲良かったのか。もしかして、中津」
「いや、中津もだいぶ前に異動してたんだ。今回は崎本っていう馬鹿明るい奴」
「おお、明と合いそう」
「お前とは正反対の奴だよ」
明が楽しそうに話すのを聴いていると、こちらまで楽しくなってきて頬が攣った。そんなに最近笑っていないのか、と思うと同時に、そんなに今俺は笑っているのか、と驚いた。ウェイターがボトルとグラスを持ってくるのを察知すると、無理矢理頬の筋肉を戻した。グラスに注がれるのをじっと見詰めた。パチパチと空気が弾けているのを見るからに、シャンパンだ。
「じゃあ、メリークリスマス」
「イブイブだけどな」
明の合図に突っ込みながら、グラスを顔の高さまで挙げた。




