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平日の都会は慌ただしそうで、ゆっくりするべきのカフェの中に仕事を持ち込んで難しそうな顔をしている人を見かけるのも多い。そんな、きっと俺より上階級にいるだろう人たちを横目に、俺はカフェの窓際で平日のど真ん中の休日を楽しむのだ。
「仕事は相変わらず変わってへんの」
俺の脳内を読んだかのように仕事の話を振って来たので、思わず目を丸くしてから気不味そうに笑ってみせた。
「うん、相変わらず。週四日、同じところに飽きることなく通ってるよ」
「その『飽きることなく』ってのが偉いんよなあ。このご時世、辞めたい辞めたい、言う人が多いやんか。適職が見つからんで。世知辛いよな」
「確かに。俺も適職とは思わねえけどさ、『飽きてない』って言いながら、よく我慢が続いてるもんだとは思うよ」
「ほんまやで。頑張ってるな」
久しぶりの道也は変わらず優しく、俺を全肯定してくれるのがとても心地好い。こんなに贅沢な心地好さを俺が受け取っていいのだろうかとすら思えてしまう。無論、普通の人は多分、これくらいが当たり前なのだろうけど。嬉しくて笑みを漏らしていると、店員がアメリカンコーヒーを二つ運んできたので、小さく頭を下げた。
「ありがとう。道也も頑張ってるよ。テレビ、そんなに観ないけど点けると映ってる。忙しいだろうに」
「いいやあ、ほんまに、天職に就かせてもらってると思うで。今日は付き合うてもらうけど、ごめんな」
「何を、そんな謝ることないし」
二年経っても相変わらず、気を遣うのが大袈裟な人だな、と思いつつも俺は首を横に振ってからカップを手に取った。
「ん、美味しい」
「美味しいか、よかった」
道也の最近の馴染みの店らしいここのコーヒーを勧められて来たが、本当に美味しい。舌に残る苦み酸味のバランスが好みで、優しく鼻に通る香りが気に入った。
「すごいな。本当に色々ある」
「一回、一人で来たことあるんやけどな。やっぱり改めて見ても種類が豊富やな」
有名アニメショップの本店らしいのだが、水曜の十五時でもこんなに人が多い。どの階に行っても漫画やぬいぐるみ、ゴム製のストラップ、枚挙にいとまがないほどある。そのうちの一つを取って道也に見せてみた。紫の服を着た長髪の女の子だ。
「こういうの、『ラバスト』って呼ぶんでしょ」
「そうみたいやな。なんや、ミチル詳しいんか」
「いいや。職場にこういうの好きな人がいるから。ああいう人たちって、楽しそうに喋るよな」
「そやなあ、趣味があるって、ほんまええよな」
「俺ら趣味ないし、ほんと虚無を生きてるよな」
「言えてる。……あ、今度共演する人、なんか女の子のアイドルのゲームが好きみたいでな。こういうのもええんやけど、楽曲だけでも押さえときたいんや」
「じゃあCDかな。でも見かけなかったし……別の階かな」
「案内板とかないんやろか。行こ」
両手に持っていた拳二つ分ほどのぬいぐるみたちを棚に置き、階段に向かって歩き始める道也についていくと、なんとこのタイミングで人の波が押し寄せてきた。その人たちは揃って根暗そうな顔立ちをしていたが、俺が、すいません、すいません、と言いながらその波をかいくぐっていると、四、五人ほどに睨まれた。異質なものを見るような目で。
俺も根暗な顔をしている。しかし、彼らとはきっと様子が違うのだ。とても不健康そうな顔立ちをしていて、精神的につらそうな歩き方をしていたのだろう。そんな視線に気がつくと、俺はほんの気持ち背筋に意識を入れて人混みを抜けた。
「道也、速いって」
やっと階段近くのエレベータの前に着くと、こちらを見遣る道也に文句を言ってやった。
「ごめんごめん。大丈夫か」
「全然」
腕を組んで怒ったふりをしてみせると、その猫かぶりの様子に、ぷは、と道也は笑った。
「ごめんて。八階みたいやわ。行こ」
道也は肩で俺の肩をつついて声をかけると、俺を誘導するように我先にとエレベータに乗っていった。薄い布越しの肩は、じんわりと汗の気配を感じた。




