13 - 2
パラレルに着くと、やはりそこにはミチルさんがいた。奥の方のバーテーブルので、見たことがない男と談笑していた。
「いらっしゃいませ、加地さん。ここ、座ります」
コートをクロークにかけると戸塚がカウンターの中央より少し奥辺りの席をすすめるので、そこに座るとした。
「少しは春めいてきたとは思ってても、やっぱりこの時間は寒いですねえ」
「だよな。体温調節には困るけど、やっぱコートは離せねえわ」
言いながら座る前に少し強めのモスコミュールを頼んだ。
「今日もお疲れさまですか」
「『ですか』って何」
「強めを飲みたいってことは、それ相応の気持ちがあるってことだと思って。酔いたい理由が」
意味深な労いの言葉に驚くと、返された言葉に「確かに」と笑ってしまった。
我慢できず、ちら、左の斜め後ろを一瞥すると、ミチルさんはまた、誘い込むように目を細めながら相手を見詰めていた。右肘を突いてカウンターの向こうへ視線を移した。パカ、と音がしたと思ったら、戸塚がタッパーからライムを取り出していた。
「ああ、朝のあれ観ましたよ。箒のやつ」
「あー、観てくれたのね、ありがとう」
「あれ、こういうの言われるのって、恥ずかしがったりしないんですか」
「いや……なんか、こういうの、慣れた。それに、冷やかしじゃないんだろ」
「はあ、まあ」
「じゃあ純粋に嬉しいよ」
「ふふ、懐かしいですよね。俺も小学生のときよくやったなあ。でも三歩しか歩けなかったです」
「な、懐かしかったわ。大人になってあんな本気でやるとは思わなかったわ。てか、こんな夜遅い時間に働いてて、よくあんな早くに起きてられるもんだな」
この間撮影した番組は、朝のニュースの間にあって、しかもそれは六時に放送している。その時間になると、店じまいが終わって疲れて寝たりしているだろうに。そこで、縦長のグラスが差し出され、一口付けた。
「いやあ、俺、実はこの店に住んでるんですよ。それで、昨日……あ、今日、は、あの時間まで掃除とか洗濯とか溜まっちゃってて。朝ご飯食べながらテレビ流してたら、たまたま」
「そうなんだ。マスターと住んでるの」
「はい。俺、お金ないときに上京したので、たまたま住み込みで働かせていただける縁に結ばれたんですよ」
「よかったな。そんなことあるんだ」
「家賃も払ってないのに美味しいご飯は出てくるし、お風呂も入れるし、嬉しいことです。でも、申し訳ないなって思ったりもしてます」
へへへ、と漏らした笑みの中にはお茶目な中にも気を遣っている雰囲気を感じた。
「俺もさ、そういや十八のとき上京してさ」
「あ、『も』ってことは俺も十八のときに上京したって話したの、覚えててくれたんですね」
嬉しげに、満足そうに笑みを浮かべる姿は少し猫をかぶっているように見えて面白い。思わず、ふふ、と声が漏れた。
「うん。まあ俺は中卒なんだけど。中学もまともに行ってなかったし、全日制の高校に受かっただけ奇跡なんだわ」
「地頭は良さそうですもんね」
「なに、見た目は頭悪そうだって言いたいのか」
「そんなつもりないですよ、とんでもない」
言いながらにこにこと目を細めているところから見て、冷やかされているのだろう。「冗談の波長」が合うのが心地好くて、こちらまで似たような笑顔が移ってしまった。




