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やっと撮影が終わった。クタクタで、カメラの後ろにあるテーブルに皆突っ伏しているのに、カンタだけが元気だ。
「やー、週五日の五分番組にさ、五本分一気撮りで三時間使うってすげえハードだよな」
ぼやきながらサッカーボールでリフティングしているのを見せられると、ハードと感じているようには見えない。ミチヒサが、はーっ、と大きな溜め息をついてから、テーブルの中心に置かれた紫のカバーがついたペットボトルを掴んだ。
「この後誰も予定ないからいいけどさ、いつもは二時間で終わるのにこれはねえわ」
こちらもぼやきながら、それでも楽しそうに笑ってペットボトルに口をつけた。俺は突っ伏したまま口を開いた。
「なんとかチャレンジとかってさ、今週そればっかかよ」
「イケメンが頑張る姿をお茶の間は見たいんじゃないの」
スグルの言わんとしていることはわかる、わかるけど……、
「勘弁してくれ……」
一番体力がないマサシが言うので少し可笑しくて皆して目を合わせてにやにやしてから、やはり、はーっ、と溜め息を重ね合わせた。すると脇田が近づいてきた。手には分厚い資料が見えた。ダブルクリップの数を見て四束か。
「脇田、何それ」
テーンテーン、と大きく床にバウンドさせてからサッカーボールをキャッチして脇田に近寄るカンタ。
「あのですね、次のクールのドラマの、主演のオーディションに行って頂きたくて」
テーブルに二束ずつ重ねて置かれた書類は二種類。五人して覗き込んでから俺とマサシ、カンタとスグルとミチヒサで分けて一つずつ目を通していった。片方は少し気が抜けた新米刑事が主人公のコメディで大物俳優が既にバディ役として決まっていた。もう片方は正統派で、ラブストーリーの当て馬役かつ主人公といったなかなかない設定だ。これは原作が漫画で完結しているらしく、原作の方は主人公は報われないらしい。
「どちらも話題作になりそうな予感しかしないんですよ。それで、ぜひ、受けていただきたくて。どなたでもうちなら合うと思ったもんですから」
若干興奮したように脇田が言うのだが、果たしてそうだろうか。五人とも「誰でも合う」というところに首を捻った。しかし、脇田の言うことなら間違いはないのだろう。
「俺はパス。ドラマ、明後日か明々後日にクランクアップするけどさ、ちょっと疲れたから二クールくらい休憩したい」
カンタは皆から離れてボールでドリブルをはじめた。確かに、と他の五人で頷き合った。そして脇田は、ぺこ、と頭を小さく下げる。
「本当に、カンタさん、今回はお疲れさまでした。こっちと大阪の往復、大変だったでしょう」
「ほんとだよー、小野上くんもいたから緊張しちゃったしさ」
脇田にボールをパスするが、上手く受け取れず、蹴り返したは良いもののスタジオの真ん中へ転がってしまった。慌てて二人してボールを追いかけ、愛想笑いしながら気不味そうに「すみません、すみません」と言って頭を何度も下げていた。それを横目に、ミチヒサが口を開いた。
「こっちの恋愛モノの方はさ、キョウスケは似合わなくね。結ばれないなんてあんまり想像できないよ」
「できないからこそ、可哀想なイケメンに惹かれるんじゃないの」
「一理ある」
スグルの一言にミチヒサは頷いた。マサシもだ。
「だからこそ、このコメディの『イケメンがドジ』なのにもギャップで惹かれると思うんですよ」
帰ってきた脇田が「この」と言いながら俺が持っている書類を、トントン、と指で軽く叩き、一同「あー」と納得の声を漏らした。
「じゃ、俺、こっち受けるわ」
俺はその脇田が指をつついた方を軽く掲げた。すると、マサシがミチヒサの手から書類を引き取った。
「俺も。受けたい」
「いいですね。マサシさんも、まったりした雰囲気が鈍臭い役にぴったりだと思います」
「はっは、それ元々マサシが鈍臭いってことかよ」
「いいの、いいの」
数メートル離れたところからカンタの笑い声が聴こえた。いじられたマサシは可笑しそうに笑った。
報われない役は、どこか、今の俺の現状に重なるような気がして避けようと思った。変な方向に感情移入はしたくない。
「それに、このドラマは何人かもう配役が決まってますしね。錚々たる顔ぶれなので注目度もありますし、成長もできると思いますよ」
うんうん、と俺はマサシと頷き合った。ここからは、良きライバルの関係だ。きっとマサシも俺をそう思ってくれている。互いの実力を認め合っているこの関係こそが、活動の充実度を上げる。そして俺は、もっともっと、芸に卓越した共演者、テレビの向こうの視聴者に認められるために仕事に励むんだ。
認め合う。認める。
頭の中でふと漏れた感想に、引っかかった。認められることによる、充実感。それは、俺にとっては快楽にも繋がる。やはり、俺は、「欲しがられている」。「求められたがっている」。核心を突かれたその言葉が、こびりついていることに気がついた。




