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12 - 1

 昨日の、仕事からの打ち上げに続けて寝ずの性交に、疲れ果てて眠気に意識をやられそうになっていると、ベッドに腰かけてトランクスを履いているタイミングで「なあ」と不意に背中から声がかかった。


「加地くんさ、俺が遊んでるの知ってるでしょ」


 そりゃそうだ。初めてパラレルで見かけたときだって、二回目のあのときだって、ミチルさんはいつも妖しげな雰囲気を漂わせながらそれぞれ別の男性といた。そのとき見た笑顔は相手を誘い込むようで、薄暗い中照明を集めた瞳の奥は欲にまみれて見えた。そして今、ミチルさんを振り向くと、


「どうしてだと思う」


 右膝を立て、そこに片肘を突いて手のひらに頬をもたれかけさせていた。右目は乱された前髪に隠され見える左目は細められており、唇は笑みを作っているが歪んでいて、まるで赤い果実が熟れすぎて割れたようだ。その目元の隈の、不健康そうなこと。確実に眼の光は幸福そうには見えない。


「どうしてって……」


 そこから黙り込む俺に、ミチルさんは胡坐をかいて腕を組み、はーっ、と大きな溜め息をついた。組んだ腕の上に見えた胸は青白く、そこには鮮やかな赤い鬱血痕が点々と散っていた。そしてまた、こちらを向いて唇を歪め笑った。


「色んな人と寝るって、どういうことかわかる。たくさんの人と、体のこと、抱いたり抱かれたりして、求め合ってんの。そこに体だけの話かそうじゃないかは別として。とにかく、体を求めてるのには変わりない。……わかるよな」


 ミチルさんを見つめる俺の瞳が揺れているのが分かった。喉が閉じてしまったように声が出ない。すると、ミチルさんは近づいてきて、俺の左肩を右手で寄せて、耳元で囁いた。


「その瞬間だけは本能があるわけよ。俺たちは獣ってこと。獣になって、求めてんだよ、獣を」


 少しずつ自分の脳内を暴かれている気がしてならなかった。背筋が凍るようで、いくらエアコンが働いているとしても寒い。ベッドに突いていた右手でシーツを握りしめた。


「多くの人と遊ぶってことは、獣だから、相性もクソもないよな。まあ、俺は加地くんの体、好きだけど」


 そう言ってミチルさんは後ろを向いて、パンツを履いた。それから布団に潜り込もうと、俺が尻で踏んでいた布団を思い切り引っ張り、俺はつんのめってこけそうになった。びっくりして「おわっ」と声を上げると、ケタケタ、と子供っぽく笑っていた。


「それでも俺たち人間には理性があって、そのせいで勘違いしてしまうんだよ。単に『俺は求められている』って。『色んな人に求められたんだ』って。加地くんもそうだろ」


 ミチルさんは目の下まで布団をすっぽりかぶって目を細めた。俺の右手を引っ張るので枕元に胡坐をかくと、その右手は布団の下へ引き込まれ、指先を絡められた。


「君の仕事も、そうなんだろ。顔が良いだけで持て囃す。それも本能だ。良い雄を探して騒いでんだよ、キャーキャーと。な。気持ちいいだろ、その歓声とか。大勢から浴びると尚更だ」


 小指、薬指、中指人差し指親指、と、順番に一本ずつ掴みながら撫でられると、指先から脳まで一直線で痺れながら悦が流れた。疲れたはずの分身が僅かに反応する。


「俺たち、欲しがられたいんだ。じゃあ、俺たち、欲しがり合おうぜ。ウィンウィンだろ」


 「勿論俺は他の人間も欲しがるけどな」と、不健康そうな瞳を細め、するり、と指を離してから向こうへ寝返りを打った。口を閉じているのに喉が渇いているのに気がつき、静かにベッドから降りるとバスルームに向かう途中に洗面所で水を口にした。

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