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「しかし、あんまりにもだなあ」


 毒づく口調は、それでも迷惑な感情は半分しかないようだ。


「ほんとに。やめとけって言ったのにな」

「そうだよ、子守り係だよ、俺ら」


 エレベーターの扉の上にある階数のランプが近付いてきたのを知らせたかと思えば、通り過ぎて上へ行ってしまった。午前三時に活動している人間が他にいるものだ。カンタは待ちくたびれたのか、右足の爪先で、トントントン、トントントン、と床を叩いていた。黙って待っていると、やっと折り返して着いた。扉が開いた。


「おっ、ありがと」


 俺は先に入って開けることを示したボタンを押し、カンタを待った。「1」のボタンを押すと箱はスムーズに動き出した。すると、俺のスマホがお尻で震えた。名前の欄には「M」と書いてあった。耳にスマホを当てながら、そういえば番号を教えていないはずだったことを思い出した。


「もしもし」

〈もしもし、加地くんかな〉

「そうだけど。俺の番号、なんで知ってんの」


 カンタはできるだけ聞き耳を立てないようにスマホを弄りはじめた。


〈え。ああ、内緒〉

「内緒って……怖いじゃん……」

〈まあまあ。だめじゃないでしょ〉

「まあ、そうだけど……」


 ポーン、と音がして扉が開いた。カンタは手を挙げて頭で会釈をしてから出ていった。すぐに玄関へ行くカンタの背中を見送って、俺はフロアにあるローテーブルを囲んだうちの一つの椅子の背もたれに尻をもたれかけた。


〈なに、今家に帰ったとこ、それとも外〉

「外です。今から帰るところなんだけど……」

〈じゃあさ、ついでに来てくれない〉

「どこに」

〈ホテルに決まってるでしょ。パラレル閉まってるし〉


 躊躇いもない言葉に二つの意味で胸の鼓動が大きくなった。ミチルさんをまた、この腕で抱ける期待。そして、躊躇いもないところからして取れる、小慣れた様子。その声色は淫靡で、背筋をぞくぞくとさせた。


「……わかった。どこに行ったらいい」


 場所を聞いてから電話を切ると、外へ出た。


「うわっ、冷た……」


 気温や風ではない寒さが、全身を覆った。辺りの空気が白い。しかもそれは濃く、街灯の灯りを頼りに慎重に駅へと向かった。



「おや偶然」


 待っていたエレベーターが開くと、そこには小野上の姿があった。お互いの姿を認めると、ほぼ同じタイミングで目をぱちくりとさせた。小野上は、一瞬にして耳まで顔を赤くした。俺の顔にも熱がこもってきて、思わず鼻から下を右手で隠した。


「こんなところで会うなんて……恥ずかしいわあ」

「は、はあ……」


 わざわざエレベーターを止めて言うことなのだろうかは知らないが、言葉を失ってしまった。


「もちろん、オフレコでね。じゃ」


 何かを俺だけに隠し持っているような、逆にそれをわざとらしく伝えるような色をした瞳の奥を見せつけられ、玄関へ爪先を伸ばし去っていく姿をエレベーターの扉の隙間から見送った。

胸がざわついた。

そういえば。


――「柑橘系が好きならネグローニとかもおすすめなんですけど、どうされますか」

――「オレンジのスライスとか、ジンとかが入ってるよ、柑橘系、好きやったんよ」


 思い出した。

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