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「お疲れさまでーす」


 カンタのひと声で、ガチャガチャ、ガチャン、と、ビールのホップが並々と盛られたジョッキを一斉にぶつけ合った。次々と反響する「お疲れさまです」の声たち。本日のユニット曲のレコーディングでアルバムの歌声の録音は全て終了した。結構充実した内容になったように思う。ビールを煽りお通しを箸でつつく面々はS@Hのメンバーと、脇田と、あとは楽曲制作のスタッフだ。今をときめく若手シンガーソングライターもいる。まだ二十歳になったばかりらしい。


「マサシ、もう焼酎頼むの。やめときなって、後でやばいことになるんだから」

「今日はめでてえから。呑む」


 タブレットで躊躇いもなく芋焼酎を頼むついでに、タコのから揚げも選んでいた。


「じゃあ俺、マグロの刺身の寄せ集めで」

「俺は馬刺しー」

「鶏むねたたきー」

「黒霧島とハイボールお願いします」


 口々に頼み出した人々の言われたとおりにタブレットを操作するマサシ。俺はビールをちまちま飲んで、三分の二と少しが残ったジョッキをミチヒサに回してから横から指を出してモスコミュールを頼んだ。


「俺も他の呑みたいんだけど」

「ミッチ、ビール好きなんだしいいでしょ」

「はーいはい」


 なんだかカンタにいなされてしまったようで唇を尖らせながらもジョッキを受け取ってくれるミチヒサに俺が悪戯っぽく笑うと、ミチヒサは「しょうがないなあ」と言いたげに微笑んでからおでこの少し上辺りの髪をわしゃわしゃ、と掻き撫でてきた。我ながら、甘やかされていると思った。こうして許される場が俺は大好きだ。自分勝手かもしれないが。自分勝手でいさせてくれるここは、心地好い場所だ。




 マサシの帰りたくない病に付き合わされてしまった。カンタと俺がマサシと帰る方向が同じなばっかりに、図体のでかいマサシの両脇を二人で抱えてベッドに投げた。


「んん……行くなよ、これからカラオケ行こうぜ、な、三人でいいからさあ」


 のそのそと這いつくばりベッドの外に手を伸ばし、カンタにしがみつくマサシ。


「痛ててて、もう、お前やめろって、痛い。カラオケも行かないから寝てなって」


 いくら鍛えているとはいえ、マサシの怪力には勝てずに狼狽えて一生懸命腕を剥がそうとするカンタ。それが面白くて俺は思わずスマホのカメラを向けた。


「キョウちゃん、写真撮ってないでマサシ剥がしてよお」

「いや動画」

「どっちでもいいからさあ」

「っはは、わかったわかった」


 これは雑誌のインタビューのネタに出せるぞ、と動画を回しつつ数枚写真を撮ってからスマホを紺のチノパンのお尻のポケットに入れ、応戦した。ものの見事にへばりついていて、腕を剥がすことができないのはわかっているので、やることはひとつだ。


「はいはーい、甘えんぼマサシくんはお着替えしましょうねー」


 カチャカチャ、とごつめのベルトを外して前を緩めてから後ろに回り、「おりゃっ」と掛け声と共にデニムパンツを脱がせてやった。


「わっ、やめろよ、キョウスケ、お前」


 バッ、とカンタから大きく距離を開けたマサシはシーツで前を隠した。隠すも何もトランクスはきちんと残してやっているのだが。隙に見えた中心部は通常時に見えるのにやはり大きく、見る度に感心してしまう。


「もう、お前たちなんて知らないから。早く帰って、帰ってよ」


 男同士で何を恥じらうことがあるのか。一緒に風呂に入った仲だというのに、マサシは酔うとよくわからないくらいに性的なことに羞恥心を覚えるらしい。布団に潜り込んで吠えるマサシに俺とカンタは目を合わせて「しょうがないなあ」と視線で会話した。


「わかったよ。水置いとくから。帰るな」


 俺は、ポンポン、と布団越しに二の腕当たりを叩いて、キッチンに向かった。はあ、と片方の手を腰に当てて溜め息をついたカンタは、ベッドの上にある段に部屋の鍵を置いた。


「水とかいいから早く帰れよバーカ、バーカ。アホ。人でなし」


 怒りながらも泣きそうな声を発するマサシはまるで幼児だ。キッチンのそばにあるテーブルに水を入れたグラスを置くと、俺はスマホや財布が自分のポケットにあるのを確かめながら玄関に向かった。カンタも付いてきた。


「はいはい。じゃあ、またな。今度はいい加減にしろよ」

「またねー」


 ドアを閉めると、ふーっ、と二人して同じタイミングで溜め息をついた。あまりにもぴったりに重なったので目を合わせて笑い、エレベーターへと歩を進めた。

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