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楽しむには努力が必要だ。いくら娯楽でも気持ち良く楽しむためにはそれ相応の技能や思い切りがあった方が充足感は大きく違う。楽しいだけではやっていけないこの仕事を楽しめるのは、ひとえに人との関わりが円滑であることもあるだろうが、やはり努力があってこそなのだ。
「キョウちゃんすごい聴き込んでない。『躊躇わないように』のところのファルセットとか綺麗」
「そう、それ俺も思った。俺のデモ超えてくるとかやっぱ表現力の化身だわ」
カンタと共に賞賛をくれるのは編曲家の砂糖さん。本名ではなく、母親の旧姓の「佐藤」から取ってきたと聞いたことがある。幼少期に亡くした彼女への気持ちを大切にしたいかららしい。
「言うてよ、カンタなんかこれほぼ一発で決めたじゃんか。これは真似できねえよ」
「だよなーやっぱ、歌で引っ張ってくれるのを任せるには適材だわ」
「やめろよー」
俺の感嘆の声にミチヒサが頷く。カンタが上手いのは当然だ、もともとの発声がとても良い。そしてソロの活動も多いため、経験が物を言っているのだ。パフォーマーとしての自信があるからこそ、のびのびと歌えるのもあるのだろう。対してミチヒサは今回も歌詞を頭に入れるのに苦労したらしい。
「自分でも不思議なくらいなんだよな、台本なら読めるのに……音痴すぎるしな……」
「そんなことないよ、デビューしたてのころ酷かったじゃん」
「そんな直球で言う」
「そうそう、音程は確実に取れてきてると思うよ」
「ほんと。なら良いけど……」
自信なさげに譜面を追っているミチヒサに、
「そういうところでファンがつくこともある。だろ」
スグルの口調は優しく、フォローというよりはしっかりとした実感の上で言っているようだ。
「そう言ってもらえるとありがてえよ、ほんと」
「そうそう、スグルの言う通りだよ。エゴサしたことあるか、エゴサ。結構話題だよ。『ちょっと音痴なところも可愛い』って」
「『音痴で可愛い』って……。そんなので話題になってもなあ……」
ぼやきながら、ミチヒサはカンタの手のひらに納まるスマホの画面を覗き込み、嬉しいような、しかし歯がゆいような笑みを見せた。
その右隣りでマサシは背中を丸めてイヤホンをつけ、手や脚を細かく動かしていた。ドラムの演奏の練習だ。
「マサシ、今度またどっかのサポメンに就くって聞いたけど。忙しいねーその練習」
「いや、明後日収録あるから。それらしい」
「あーこれ。すごいよなー、これ全部自分で作って来んだぜ。よくこんなの思いつくわ」
マサシの前に置かれたテーブルの上の紙を渡され覗き込むと、びっしりと音符が描かれた譜面がそこにはあった。譜面を取り上げられたマサシの顔色を伺うと何の反応もない。再び紙の上へ視線を戻すとバツ印が多く描かれており、俺の目もバツ印になりそうだ。譜面を覗いた四人は四人して、すげえ、すげーな、と口ぐちに言い、
「しかもこれ、ドラムのみで曲として成立させんだぜ……」
と、ミチヒサが慄くように、しかし、自慢げにこぼした。
俺たちは顔が良いだけでこの世界に入った。でも、それだけではこの世界で必要とされる条件には足りない。つまりはそれ以外の「個性」が必要だ。決して埋もれないような。その個性の魅力を見せ付けるために、俺たちは切磋琢磨すべく、見えるところでも見えないところでも、色々をやっているのだ。
求められたい。その一心で。




