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世界の果てを、この目で  作者: 亜蓮


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11/29

第10話 三人なら

 それから、一か月が経った。

 たった一か月。

 でも俺にとっては、今までの十五年間とはまるで違う一か月だった。

「ルカ! そっち行った!」

「分かってる!」

 畑の中を、小さな影が走り抜ける。

 丸々と太った体。短い四本の脚。頭から伸びた二本の角。

 俺はそいつの進行方向へ回り込んだ。

「クウ!」

「クゥ!」

 反対側からクウが飛び出す。

 驚いた魔物が急停止。向きを変えた先には――。

「こっちは駄目!」

 ミアが待っていた。

「キュイッ!?」

 行き場を失った魔物が、その場で右往左往する。

「よし、そのまま森まで追い込むぞ!」

「倒しちゃ駄目だからね!」

「分かってる!」

 今日の依頼は、畑に入り込んだ魔物の追い払い。討伐じゃない。

 三人で少しずつ距離を詰める。

 やがて魔物は諦めたのか、ものすごい勢いで森へ逃げていった。

「……よし!」

 拳を握る。

 後ろでは畑の持ち主のおじさんが笑っていた。

「助かったよ。これでしばらく畑に入ってこないだろ」

「また来たら呼んでくれ!」

「そのときは頼むよ、冒険者さん」

 冒険者さん。

 最初は、その呼ばれ方をするだけで嬉しかった。

 今でもちょっと嬉しい。

「ルカ」

「ん?」

「踏んでる」

「何を?」

「野菜」

「……」

 足元を見る。

「うわあああ!?」

     ◆

「報酬から野菜代を引かれた」

「当然だろ」

 ジャンは少しも同情してくれなかった。

「魔物から畑を守りに行って、冒険者が畑を荒らしてどうすんだ」

「わざとじゃない!」

「結果は同じだ」

「ぐっ……」

 何も言い返せない。

 横ではミアが笑いを堪えている。

「笑うなよ」

「笑ってないよ」

「笑ってるだろ!」

「クゥ!」

「クウまで!」

 こんな感じで。

 俺たちは一か月、いろんな仕事をした。

     ◆

 薬草を採った。

「これだ!」

「違う」

「え?」

「それは月白草だ。依頼は月白『葉』だ」

「……違うの?」

「全然違う」

「ほとんど同じじゃん!」

「依頼人の前でそれ言ってみろ」

 全部採り直した。

     ◆

 荷物を運んだ。

「……重い」

「だから半分持つって言ったじゃん」

「いけると思ったんだよ……」

「あと半分くらいあるよ」

「嘘だろ……」

「クゥ!」

「お前は荷車から降りろ!」

「クゥ?」

「なんで『僕関係あります?』みたいな顔してるんだ!」

     ◆

 雨にも降られた。

「ルカ! 荷物!」

「今やってる!」

「そっちから水入ってる!」

「うわっ!」

「先に布かけて!」

「どの布!?」

「背負い袋に入れたでしょ!」

「どこ!?」

「私が入れたんじゃないんだから知らないよ!」

「クゥー!」

「クウ! 雨宿りしてないで手伝え!」

     ◆

 迷子になった家畜を探した。

「見つからないな」

「足跡はこっちなんだけど……」

「クウ、分かる?」

「クゥ!」

「お、さすがクウ!」

 クウについていった。

 十分後。

「……」

「……」

「クゥ!」

 クウは川辺で魚を見ていた。

「家畜は!?」

     ◆

 もちろん。

 失敗ばかりじゃなかった。

 街道を歩く商人を護衛した。

 森で薬草を採った。

 近くの村へ荷物を届けた。

 魔物の痕跡を調べた。

 畑に入り込んだ小型の魔物を追い払った。

 時には魔物と戦うこともあった。

 初めて見るものを見つけることも、たくさんあった。

 前なら、気になった瞬間に走っていた。

 今も走りたい。そこは変わってない。

「……」

 街道から少し離れたところに、見たことのない花が咲いている。

「ルカ」

「分かってる」

 依頼中。

「帰りに見る」

「よろしい」

 そういうことも、少しずつ覚えた。

 野営も何度かした。

 相変わらず地面は硬い。火を起こすのにも時間がかかる。

 最初よりは上手くなったけど。

「ついた!」

「今日は早かったね」

「だろ?」

「三十分」

「最初は一時間くらいかかったんだから進歩だろ!」

「クゥ!」

 クウは何もしてないのに、なぜか誇らしそうだった。

 食料は少し多めに。

 水は出発前に確認。

 雨が降りそうなら荷物を濡らさない準備をする。

 分からないことは勝手に決めつけない。

 無理だと思ったら帰る。

 依頼を受けたら、まず依頼を終わらせる。

 覚えることは、まだ山ほどある。

 だから俺は、それもノートに書いた。

『雨の日の街道は思ってるより滑る。』

『食料は少し余るくらいでいい。』

『知らない草を勝手に食べない。』

『依頼中は依頼を優先する。』

『クウに干し肉の見張りをさせない。』

「これ、冒険の記録?」

 横から覗いたミアが言った。

「重要だろ」

「最後のも?」

「特に重要だ」

「クゥ!」

「お前が言うな!」

 一度、見張りを任せた干し肉が半分になった。

 犯人はまだ見つかっていない。たぶん永遠に見つからない。

 そうやって。

 気づけば、一か月が経っていた。

     ◆

「おはよう、ジャン!」

「遅えぞ」

「まだ朝だろ!」

 いつものように冒険者ギルドへ入る。

 一か月前。

 初めてここへ来た日は、何もかもが珍しかった。

 たくさんの冒険者。壁いっぱいの依頼。受付。冒険者証。

 全部を見ていた。

 今はもう、入口を入れば自然に依頼板へ向かう。

「今日は何にする?」

「採取は昨日やっただろ」

「護衛?」

「遠いやつないかな」

「また距離で選んでる」

 そんな俺たちに、

「ルカ。ミア」

 ジャンが声をかけてきた。

「ちょっと来い」

「何?」

「いいから」

 受付へ行く。

 ジャンが一枚の依頼書を置いた。

 読む。

「……討伐?」

「ああ」

 思わず顔を上げる。

「俺たちが!?」

「声でけえ」

 もう一度、依頼書を見る。

 ローデンからベルナへ向かう街道の近く。

 数日前から、荷馬車が魔物に襲われる被害が出ているらしい。

 確認された魔物は一頭。

 鎧蜥蜴《アーマーリザード》。

 背中を硬い鱗で覆った、大型の蜥蜴型魔物。

「今まで魔物とは何度も戦ったけど……」

「魔物を倒すことそのものが仕事になるのは初めてだな」

 ジャンが言う。

「どうして俺たちに?」

「一か月、お前らを見てたからだ」

「……」

 思っていなかった答えだった。

「最初に比べりゃ、多少はマシになった」

「多少ってなんだよ」

「分からねえことを分からねえって言えるようになった」

「……」

「危ねえと思ったら帰ることも覚えた。仕事ほっぽって勝手に森に入ることもなくなった」

「それまだ言う!?」

「一か月前だろうが」

「もう反省したって!」

「なら問題ねえな」

 ジャンが笑う。

「仕事も途中で投げなくなった。簡単な魔物なら何度か相手にしてる。三人の動きも、前よりはマシになった」

「……三人」

 俺。

 ミア。

 クウ。

「だから、そろそろ受けてみるかと思ってな」

 ジャンが依頼書を俺の前へ押した。

 前だったら、たぶんすぐに答えていた。

 討伐。やる! それだけだったと思う。

 でも今は、もう一度依頼書を見る。

 場所。ベルナ街道北側。

 確認された数、一頭。

 被害、荷馬車二台。人的被害なし。

 特徴。硬い鱗。強い尾。素早い突進。

「……ジャン」

「なんだ」

「一頭って、本当に一頭?」

 ジャンが少しだけ目を細めた。

「確認されてるのは一頭だ」

「じゃあ、他にもいるかもしれない?」

「可能性はある」

「そっか」

 依頼書から目を離す。

 ミアを見る。

「どうする?」

「……え?」

「受ける?」

 ミアが少し驚いた顔をした。

「私に聞くんだ」

「なんで?」

「いや……」

 ミアが小さく笑う。

「一か月前なら、もう依頼書持って走ってたと思って」

「俺だって成長するんだぞ」

「昨日、知らない虫を追いかけようとしてたけど」

「行かなかっただろ!」

「そうだね」

 ミアが依頼書を見る。少し考えて。

「私はいいよ」

「クウは?」

「クゥ!」

「やる気だな」

「たぶん」

「じゃあ」

 依頼書を手に取る。

「三人でやる」

 ジャンが頷いた。

「無理だと思ったら帰ってこい」

「討伐しなくても?」

「討伐依頼だからって、死ぬまで戦えって意味じゃねえ」

「……分かった」

「あと」

「まだある?」

「鎧蜥蜴は硬いぞ」

「どれくらい?」

「お前の剣が泣くくらい」

 腰の剣を見る。

「……父さんに怒られるかな」

「死ぬよりマシだろ」

「それはそうだ」

     ◆

 街道を歩く。

 今日の荷物はいつもより少し多い。

 水。食料。薬。ロープ。替えの布。小さな解体道具。

「忘れ物ない?」

「確認した」

「水は?」

「ある」

「薬」

「ある」

「食料」

「ある」

「ロープ」

「ある」

「珍しい」

「なんでだよ!」

「ちゃんと準備できてるから」

「俺をなんだと思ってるんだ」

「一か月前、野営に行くのに何持っていけばいいか分からなかった人」

「一か月前の俺と比べるな!」

「一か月しか経ってないけどね」

「クゥ!」

 クウが俺たちの前を歩いている。

「クウ」

「クゥ?」

「今日は干し肉に近づくなよ」

「クゥ!?」

「なんでそんなショック受けてるんだよ」

     ◆

 昼前。

 被害があった場所へ着いた。

「ここかな」

 街道の端に、深い傷が残っている。

 荷馬車の車輪の跡。その近く。

「これ」

 ミアが指差す。

 大きな足跡。四本指。

「鎧蜥蜴かな」

「たぶん」

 しゃがんで確認する。

 少し先にも同じ足跡。森へ続いている。

「一頭?」

「……分からない」

 足跡が重なっている。

 一頭が何度も通ったのか。複数いるのか。これだけでは判断できない。

 ノートを取り出す。

『ベルナ街道北側。

 大型の蜥蜴型魔物と思われる足跡。

 数――不明。』

「行く?」

 ミアが聞く。

「もう少し調べる」

 前みたいに、足跡を見つけたからってすぐ追わない。

 周囲を見る。

 木の幹。低い位置に大きな傷。

 地面。何かを引きずったような跡。

「クウ」

「クゥ」

 クウの大きな耳が動く。

 右。左。そして。

「クゥ……!」

 低い声。

 俺とミアは同時に動いた。

 俺は剣。ミアは弓。

 草むらが揺れる。何かが出てきた。

「……でかい」

 地面を這うような低い体。太い四本の脚。長い尾。

 頭から背中、体の側面までを、灰褐色の分厚い鱗が覆っている。

 鎧蜥蜴《アーマーリザード》。

 向こうも俺たちに気づいた。

 低い唸り声。

「一頭」

「見える範囲ではね」

「……だな」

 剣を構える。

 鎧蜥蜴が走った。

「来る!」

 速い。

「――風よ、押せ!」

 横へ跳ぶ。巨体がすぐ横を通り過ぎる。

 振り向きざま、剣を振るう。

 ガキンッ!

「硬っ!?」

 手が痺れた。

「ルカ!」

 尻尾。

「うわっ!」

 しゃがむ。頭上を太い尾が通過する。

「本当に剣が泣きそうだな!」

「感想言ってる場合!?」

 ミアの矢。鱗に当たる。

 弾かれた。

「矢も駄目!」

「分かってる!」

 距離を取る。

 強い。牙猪よりずっと。

 でも。

「……」

 怖くないわけじゃない。

 それでも、前ほど頭の中が真っ白にはならない。

 見る。考える。

 俺には、そのための力がある。

 鎧蜥蜴を見る。意識を集中する。

 ――分かる。

 背中。側面。硬い鱗。

 左後脚。古い損傷。動きに大きな支障はない。

 そして。

 腹部。鱗が薄い。

「……腹」

「え?」

「腹の鱗が薄い!」

「でもどうやって狙うの!?」

「それ考えてる!」

「そこまで分からないの!?」

「俺の祝福は答えを教えてくれるわけじゃないんだよ!」

 鎧蜥蜴がまた突っ込んでくる。

 避ける。考える。

 腹が柔らかい。でも地面にくっついている。

 だったら、どうやって腹を見せる?

「クゥ!」

 クウが走った。

「クウ!」

 鎧蜥蜴が反応する。

 クウを追って向きを変えた。

 そのとき。

「……そうか」

 地面を見る。

 少し先。街道から外れた場所に、緩い斜面がある。

 その途中に倒れかけた細い木。

「ミア!」

「何!?」

「あいつを斜面まで連れていく!」

「どうするの!?」

「追いかけさせる!」

「誰を!?」

「俺!」

「またそういうの!?」

「今回はちゃんと考えてる!」

「それなら先に言って!」

 走る。鎧蜥蜴の正面へ。

「こっちだ!」

「グルルルッ!」

 来る。

「ミア!」

 矢が飛ぶ。頭部。

 鱗に弾かれる。でも、それでいい。

 鎧蜥蜴の視線が一瞬ミアへ。

「クウ! 右!」

「クゥ!」

 クウが反対側から飛び出す。

 鎧蜥蜴が迷う。その間に斜面へ走る。

「来い!」

 追ってきた。速い。

 距離が縮まる。

「ルカ!」

「まだ!」

 もう少し。

 倒れかけた木。そこを越える。

「――風よ!」

 背中へ風。加速。

 木を飛び越える。

 直後。

 鎧蜥蜴が木にぶつかった。

 バキッ!

 木が折れる。

「嘘だろ!?」

「全然止まってない!」

「予定と違う!」

「ルカ!」

 鎧蜥蜴が迫る。避ける。

 巨体が斜面を駆け下りる。勢いがつきすぎている。

「今だ!」

 ミアの矢が顔をとらえる。

 鎧蜥蜴が反射的に頭を振る。前脚が滑った。

「――風よ、押せ!」

 横から強く。

 巨体が傾く。踏ん張ろうとする。

「クウ!」

「クゥ!」

 クウが足元へ飛び込む。

 鎧蜥蜴がさらに向きを変えた。

 その瞬間。

 体勢が崩れた。

 巨体が横転する。腹が見えた。

「ミア!」

「もう狙ってる!」

 矢が飛んだ。

 柔らかい腹部へ深く刺さる。

 鎧蜥蜴が暴れる、俺も走る。

「――風よ、押せ!」

 踏み込んで剣を突き立てた。

 硬い鱗じゃない。刃が通る。

「うおおおおっ!」

 鎧蜥蜴の体が大きく跳ねた。

 そして…………止まる。

「……」

「……」

「クゥ……」

 剣を抜く。すぐには近づかない。

 少し待つ。意識を集中する。

 ――生命活動。停止。

「……倒した」

「本当?」

「うん」

 ミアが弓を下ろした。俺も剣を下ろす。

 三人で顔を見合わせる。

「……」

「……」

「クゥ」

「やったああああ!」

「やった!」

「クゥー!」

 思わず三人で飛び跳ねた。

「強かった!」

「途中、木が折れたとき絶対駄目だと思った!」

「俺も思った!」

「作戦じゃなかったの!?」

「木で止まる予定だった!」

「全然止まってなかったじゃん!」

「でも倒しただろ!」

「結果論!」

「クゥ!」

「クウはよくやった!」

「クゥ!」

「今回はちゃんと三人で倒したね」

「今回はってなんだよ。牙猪のときも三人だっただろ」

「あのときクウ、ほとんど応援してただけじゃない?」

「クゥ!?」

「ほら、怒ってるぞ」

「でも今回は大活躍だったでしょ?」

「クゥ!」

 クウが得意そうに胸を張った。

 俺たちは笑った。

     ◆

「よし」

 鎧蜥蜴の前にしゃがむ。

「まずは素材を傷めないように処理するぞ」

「おお」

「なんだよ」

「ちゃんと覚えてたんだ」

「当たり前だろ!」

「牙猪を丸ごと持って帰った人とは思えない」

「それジャンにも言われた!」

 父さんに教わった事やこの1ヶ月で覚えたやり方を思い出しながら処理する。まだ上手いとは言えない。時間もかかる。

 でも最初よりはずっとマシだ。

 使える素材を確認して、持ち帰れる分をまとめる。

「……なあ」

「何?」

 鎧蜥蜴を見る。

「こいつ、最初の牙猪より強かったよな」

「うん」

「俺たち、強くなってるな」

「一か月前よりはね」

「そこは普通に認めろよ」

「でも」

 ミアがクウを見る。

「三人だったからだよ」

「……」

 俺もクウを見る。それからミアを見る。

 牙猪を倒したとき。

 森の洞窟を調べたとき。

 狼の群れから逃げたとき。

 初めて野営したとき。

 依頼で失敗したとき。

 一か月。ずっと三人だった。

「……そうだな」

 一人だったら。

 たぶん、ここまで来られなかった。

「三人なら、もっといろんなところに行けそうだな」

「そこで調子に乗らない」

「まだ何も言ってないだろ!」

「顔で分かる」

「最近それ多くない!?」

「クゥ!」

     ◆

「……まあ、悪くねえな」

 ギルドへ戻ると、ジャンは持ち帰った鎧蜥蜴の素材を見てそう言った。

「それ褒めてる?」

「好きに受け取れ」

「もっと普通に褒めろよ!」

「調子に乗るだろ」

「乗らない!」

「乗る」

「乗るね」

「ミアはどっちの味方なんだよ!」

 ジャンが討伐方法を確認する。

 足跡。

 一頭しか確認できなかったこと。

 鱗が硬かったこと。

 俺の【???】で腹の鱗が薄いと分かったこと。

 斜面へ誘導したこと。

「なるほどな」

「木で止める予定だったんだけど」

「折れた」

「折れた」

「そこ二人で言うなよ」

 ジャンが笑う。

 冒険者証に今回の依頼が記録される。

 初めての正式な討伐依頼。成功。

「よし!」

 冒険者証を受け取る。

 そのとき。

「なんだ?」

 ギルドの入口が騒がしくなった。

 数人の冒険者が依頼板の前に集まっている。

「何かあったのかな」

「見てくる!」

「あ、ルカ!」

 人の間から依頼板を覗く。

 新しい紙が貼られていた。

 いつもの採取や護衛の依頼とは少し違う。

 ギルドから冒険者へ向けた情報。

 その中の文字が目に入る。

『大森林迷宮――未踏区域発見』

「……」

 もう一度読む。

『未踏区域』

「……未踏」

 知らない場所。

 まだ誰も調べていない場所。

「ルカ」

 後ろからミアが来た。

「これ」

 指差す。ミアも読む。

「……」

「……」

 少しだけ沈黙。

 ミアが俺を見る。

「嫌な予感がする」

「奇遇だな」

「何が?」

「俺はすごくいい予感がする」

「それが嫌な予感なの!」

 後ろからジャンの声が飛んできた。

「お前らにはまだ関係ねえぞ!」

「まだ何も言ってないだろ!」

「顔で分かる!」

「ジャンまで!?」

 ギルドに笑い声が響いた。

 もう一度、依頼板を見る。

 大森林迷宮。

 未踏区域。

 知らない場所。

 その言葉を見ているだけで、胸が高鳴る。

 一か月前。俺は冒険者になった。

 そして今。

 また新しい冒険が、俺たちの目の前に現れようとしていた。

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