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バード・フル(H5N1)  作者: 弥一


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宇宙の旅 2

「エレナ、地球を見てみよう。こうするんだ」エレナ・ロペスの右隣りに座っていたドラゴン司令(コマンダー)がシートベルトを外して、腰を浮かす。


 そして、座席とディスプレイの間に、足から潜り込むようにしてディスプレイの向こう側に移動する。後ろ手で座席を持ち上げ、その反動で移動したようだ。


 エレナも地上でシミュレーターに乗り込んで訓練していたが、なにしろ無重力状態は初めてだ。真似(まね)をしてみるが、うまくいかず、ディスプレイを梃(てこ)にして移動する。


「博士、船を壊さないでくれよ」離陸直後のチェック・シーケンスを行っているパイロットが言った。


「ごめんなさい、慣れていないので」そう言いながらエレナが船首部に流れていく。


 右の窓を覗き込んでいた司令が言う。


「こっちだ、エレナ、ここから地球が見えるぞ」司令が窓から離れ、エレナを窓に押し付ける。


 海と、白い雲。地球が見えた。


 まだ球というよりも海洋だった。ただ、暗い宇宙との境には、薄くて青い大気層が見える。


「ボブ、いまどのあたりだ」司令が尋ねる。


「ノバスコシア半島の南西沖あたりだ、高度は230キロメートルくらい」ボブと呼ばれたパイロットが答える。


「エレナ、しばらく見ているといい、もうすこしすればアイスランド、そしてイギリスや北欧あたりが見えてくるだろう」そういって司令が座席に戻っていった。




 エレナがしばらく地球を眺めていると、左手にグリーンランドかアイスランドらしき陸地が見える。そして特徴的な形のグレートブリテン島が見えて来た。北西側から眺めているようだ。




 エレナはアメリカ合衆国の北東部、ニューヨーク州ロチェスターの出身だった。オンタリオ湖に面している。

 ロチェスターはイーストマン・コダックやゼロックスの創業地で、 The World Image Centre と呼ばれている。


 町の東にアイロンデコイトと呼ばれる浅い湾があり、冬場には凍結する。


 子供の頃、冬にアイロンデコイトに行き氷上で橇(そり)遊びをしたことを思いだす。


 橇に腹ばいになって、氷の上を滑った。凍った湖面が、向こうからどんどんやってきて、顔のすぐ近くを通って腹の方に去っていく。


 あのときの景色に似ている、そう思った。




 見覚えのあるユトランド半島やスカンジナビア半島が見分けられるころ、夜の側に入った。


 地上は日暮れ時だろう。目が慣れてくると無数の光の点が見えて来る。光が集まっているところは都市なのだろう。


”これも、見事な景色ね”そう思う。


 エレナの頭の上の方で、ゴトゴトと何かが動く音がする。パイロットのボブがドラゴンのノーズコーンを開いた音だ。


「エレナ、宇宙服を脱いだらどうだ、それと軽食にしよう。エナジーバーとドリンクがある」司令が言った。




 宇宙服を脱ぎ、食事をしたあと、心拍と体調を音声で記録する。それらは即時にテキスト化される。

 無重力に慣れるため、回転してみたり、さまざまな動きをして身体感覚を探る。


 就寝の時間になり、座席をリクライニングして、照明を落とし、無重力空間で寝てみる。案外ぐっすりと眠れた。




 そうして50時間ほどで、高度800キロメートルの生物学研究ステーション『ヒュギエイア』に接近する。


 最初の印象は、黒い宇宙に三本の白い筒が並んで浮かんでいる、というものだった。


 近づくにつれ、詳細が見えて来る。ステーションは左右に延びるトラス(背骨にあたる)を中心にして組み立てられている。

 トラスの手前に一本の円筒が、トラスを挟んで反対側にもう一本の円筒があった。この二本は一直線上にある。

 そして、奥の円筒の左側に、平行にもう一つの円筒があった。

 

 円筒以外のところには多数の太陽電池パネルが広がっている。


「手前の円筒が司令・居住棟、その向こう側が実験棟だ。この二つは反対方向に回転して人工重力を作っている。そして奥の左側は倉庫棟だ」司令が言った。


 確かに手前の円筒が回転しているのが見て取れる。ひとつの円筒形は直径25メートル、長さ80メートル程ある。

 中心部分の直径5メートル程が回転していないが、その外側が右回りにゆっくり回っている。


 約10秒で一周するそうだ。そのことにより円周部で地上の半分、0.5Gの人工重力を発生させている。


 ウイルス自体は微小重力環境でも、それほど不都合はないかもしれない。しかし、シャーレや実験動物があちらこちらに浮遊していくのでは、とても危険だ。




「我々の船は、倉庫棟にドッキングする。司令・居住棟には、すでに別のドラゴンがドッキングしているからだ」

「倉庫棟から居住棟に行くためにはトラスを通ればいい、と聞いてるわ」

「そうだ。トラスの中は通路になっているからな」


「あとは沖仲仕(ドックワーカー)の仕事になる。手の空いている者が総出でトランク・セクションの荷物を倉庫棟に運び込むんだ。ドラゴンの座席やディスプレイ・パネルは折りたためるようになっているので、作業に不都合はない」


「そして、博士。あなたにも沖仲仕になってもらう」そういってドラゴン司令(コマンダー)が笑う。


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