第二話 職業鑑定
アラが言っていた広場に到着すると、俺は驚いた。
人がいる!
目の前にいる数十人の人間は、どう見ても地球人だった。
着ている服も、話している言葉も、地球にいた頃と変わらない。
しかも、黒人も白人も黄色人種もいる。
間違いない。
みんな地球人だ。
俺は、黒人の男と白人の男が英語で何かを話しているのを見かけた。
すると二人は、突然嬉しそうに抱き合った。
どうやら祖国の人間と出会えたらしい。
まあ、この状況なら、同じ国の人間がいるだけでもかなり安心するよな。
俺も広場にいる他のアジア系の人たちに話しかけてみた。
だが、残念ながら、彼らも日本人ではなかった。
俺が話しかけても、みんな首を横に振ったり、手を振ったりして、俺の言っていることがわからないという反応をする。
……日本人は、俺一人だけか。
異世界旅行って、ちょっと寂しいな。
そして、俺は別のことにも気づいた。
ここにいる人たちのそばには、キアラと同じような緑色の服を着て、武器を持った少女や少年が一人ずつ付いている。
キアラも、何かの案内役みたいなものなのか?
俺たち地球人が互いに話をしていると――
突然、大勢の武器を持った兵士たちが、鎧を身につけた姿でこちらへやってきた。
その兵士たちに囲まれるようにして、一人の中年男性が歩いてくる。
赤いローブをまとい、頭には金色の冠をかぶっている。
衛兵と……王様?
この人が、異世界の大物ってやつなのか?
「王、来た」
キアラが俺の服を軽く引っ張り、静かにするように合図する。
そして、その場に片膝をついた。
キアラと同じ緑色の服を着た少年少女たちも、同じように跪く。
広場は、一瞬にして静まり返った。
その大物は俺たちを一通り見回すと、落ち着いた様子でゆっくりと話し始めた。
キアラの通訳のおかげで、俺にもその言葉の意味がわかった。
「異世界の勇者たちよ。よくぞ来てくれた。私はアセラニア王国の国王である」
「そなたたちは、我々の願いを受け入れ、この世界へ来ることを選んでくれた。そして、我々を助けるため、魔王を追い払う力を貸してくれる。その寛大さと勇気に、心から感謝する」
「魔王を追い払った暁には、そなたたちの願いを叶えるため、私はできる限りのことをしよう」
「STOP!」
一人の白人男性が、国王の言葉を遮った。
俺には何を言っているのかよくわからなかったが、まくし立てるような話し方と、世界共通ともいえる侮辱のジェスチャーを見れば、彼が異世界に来たことをかなり不満に思っているのは明らかだった。
「ふふっ」
国王は、キアラから通訳されたその男の言葉を聞くと、なぜか笑った。
「電子メール、手紙、ショートメッセージ、アンケート、友人からの誘い、夢を通じた呼びかけ……」
「どのような方法であれ、我々はそなたたちの世界の手段を使って、こちらへ来る意思があるか尋ねた。そして、そなたたちは皆、同意したのではないか?」
「異世界へ来たものの、自分の望んでいた生活ができなかったからといって、それを我々のせいにされては困る。我々は、そなたたちを無理やり連れてきたわけではないのだからな?」
うぅ……。
この王様、なんか言ってることがおかしくないか?
この異世界召喚って……まるで詐欺じゃないか?
本当の目的は、
「地球人の皆さん、異世界の軍隊に入って、我々のために戦ってください」
なのに、実際に言っていることは、
「地球人の皆さん、異世界に遊びに来てみませんか?」
みたいなものじゃないか。
「もちろん、元の世界へ帰ることもできる。それはそなたたちの自由だ」
「ただし、転移魔法陣を起動するには大量の魔石が必要となる。残念ながら、我が国にも余分な魔石はない。もし元の世界へ帰りたいのであれば、そなたたち自身で十分な量の魔石を用意してくれ。その時になれば、我々も喜んでそなたたちを元の世界へ送り返そう」
「もちろん、魔石を手に入れる最も良い方法は、我々を助けて魔王を倒すことだ」
国王の話を聞いた人々は、それぞれ違った反応を見せた。
うなだれて肩を落とす者。
何事もなかったかのように平然としている者。
嬉しそうに手を振る者。
怒りを露わにして拳を振り上げる者。
それでも、どうやらみんな、自分たちがすぐには元の世界へ帰れないという現実を受け入れたようだった。
「では、これより職業鑑定を始める」
国王がそう言うと、衛兵の一人が何かを捧げ持つようにして、丸い球体を持って前へ出てきた。
キアラの話によれば、俺たち地球人には、それぞれ固有の職業があるらしい。
職業によって、使える能力も異なる。
だが、その職業は、まず鑑定を受けなければ確認することができない。
衛兵が持ってきた球体は、職業を鑑定するための水晶玉だった。
鑑定方法はいたって簡単。
自分の手を水晶玉の上に置くだけだ。
すると水晶玉が光を放ちながら、その人の職業に関する文字を表示するらしい。
何はともあれ、俺たちはまず職業鑑定を受けなければならない。
俺たち地球人は列を作り、一人ずつ職業鑑定を受けていく。
そして、みんなの職業が次々と明らかになっていった。
キアラの通訳によれば、地球人たちが鑑定された職業には、「剣聖」「斧戦士」「シャーマン」「槍兵」といった戦闘系の職業もあれば、「錬金術師」「料理人」「鍛冶師」「小説家」といった生産系の職業もあった。
本当に、いろいろな職業がある。
そうなると、俺も期待してしまう。
俺にも、何か強力な職業があるんじゃないだろうか?
そして――ついに俺の番が来た。
キアラに促され、俺は水晶玉に手を置いた。
水晶玉から、俺を安心させるような光が放たれる。
そして、その中に異世界の文字が浮かび上がった。
「鑑定、結果、出た。雅人の専用職業は……『猫召喚士』?」
キアラは、表示されたさらに詳しい情報を読み上げる。
「職業紹介。異世界で、自由に猫を召喚できる。時間、制限なし。場所、制限なし。回数、制限なし。召喚した猫と一緒に、楽しく遊びましょう!」
「猫しか召喚できない? そんな職業、何の役に立つんだ?」
国王は、大声で言ったわけではない。
ただ、小さく呟いただけだった。
それでも、その言葉をキアラが俺に通訳してくれた。
……最悪だ。
せっかく異世界に来たっていうのに――
俺に与えられたのは、まさかのハズレ職だった。




