第一話 炎から現れた少女
「うぅ……頭が痛い」
どれくらい時間が経ったのだろう。
俺はようやく意識を取り戻した。
そして、意識が戻った瞬間――全身に悪寒が走った。
ここは……俺の部屋じゃない!
なんで俺は、草むらなんかに寝転がってるんだ!?
慌てて起き上がり、周囲を見回す。
……間違いない。
ここは、俺の部屋じゃない。
辺り一面に広がる草原。 生い茂る木々。 どこを見ても、見覚えのない景色ばかりだ。
メールを一通開いただけだぞ?
まさか……本当に異世界に来たっていうのか?
いやいや、そんなわけないだろ。
これは……夢だよな?
でも……もし夢だとしたら、あまりにもリアルすぎる。
地面の感触。 青々とした草の匂い。
そして、森の奥から姿を現した、狼のような――
……狼?
狼だ!!!
もう、ここが夢なのか現実なのかなんて考えている場合じゃなかった。
目の前に、一匹の狼が現れたのだ!
……たぶん、狼だよな?
灰色のその動物は、テレビで見たことのある狼にそっくりだ。
ただし――頭には、一本の角が生えている。
しかも、低い声で「ヴゥゥ……」と唸りながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
いや、俺はお前に危害を加えるつもりなんてないからな!
だから、お前も俺を襲わないでくれ!
ここで背を向けて逃げたら、きっと襲ってくる。
かといって逃げなければ、狼が近づいてくるたびに、俺は後ずさるしかない。
どうする?
どうすればいい!?
狼が俺に飛びかかろうとした、その瞬間――
俺の目の前を、突然、炎が駆け抜けた。
「アオオオオッ!」
狼は炎を見ると、明らかに怯んだ。
だが、それだけでは終わらなかった。
炎の向こうから、一人の少女が姿を現した。
緑色の服を身にまとい、右手には炎をまとった短剣を握っている。
少女は短剣を振り上げ、そのまま狼へと振り下ろした。
炎をまとった短剣を自在に振るうその姿は、まるで筆を走らせる画家のように美しかった。
数回、短剣を振るっただけで――
狼は炎に包まれ、やがて灰となって消えた。
角の生えた狼。
突然現れて俺を助けてくれた少女。
炎をまとった短剣。
……ここは夢じゃない。
やっぱり、ここは異世界なんだ。
「日本人、あなた?」
狼を倒した少女が、今度は俺に話しかけてきた。
……日本語?
この子、日本語が話せるのか?
それにしても……なんて美人なんだ。
まるで宝石にエメラルドを埋め込んだかのような、美しい少女だった。
「聞いてる、わかる?」
俺が黙ったままでいると、少女はもう一度尋ねてきた。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと状況が飲み込めなくて……。えっと、まずは助けてくれてありがとう。本当に助かった。それと……一つ聞いてもいいかな? ここって、異世界なのか?」
少女はこくりと頷くと、少しぎこちない口調で答えた。
「そう。あなたたちの言い方、だったね。ここ、異世界だよ」
……日本語、ちょっと変だな。
この子はいったい、どこで日本語を覚えたんだ?
「名前、私の……キアラ」
少し変わった話し方ではあったが、少女は自分の名前を名乗った。
「ああ、俺は雅人。よろしく」
「雅人、どうもどうも」
キアラは妙なイントネーションでそう言った。
……これが異世界の文化なのか?
まあ、とりあえず友好的なところを見せるために、俺も彼女の話し方を真似してみる。
「キアラ、どうもどうも」
すると――
彼女は笑った。
……可愛いな。
キアラに連れられて、俺はさっきの森を後にした。
この子は日本語があまり得意じゃないようだ。
それでも道中、俺たちはお互いに一生懸命話をした。
おかげで、だいたいのことは理解できた。
キアラから聞いた話を整理すると――
まず一つ目。
俺は夢を見ているわけじゃない。
ここは間違いなく、日本とは別の世界――異世界らしい。
二つ目。
この異世界には、「召喚魔法」というものが存在するらしい。
詳しいことはキアラにもよくわからないようだが、どうやら召喚に応じた人間を異世界へ転移させる魔法らしい。
……召喚に応じた?
俺、誰かに呼ばれた覚えなんてないんだけどな。
あのとき俺が思ったのは、ただ――
『もう一度、人生をやり直せたらいいのにな』
それだけだった。
……うーん。
やっぱり、よくわからない。
そして三つ目。
俺以外にも、この近くの広場に召喚された人たちがいるらしい。
キアラによれば、その広場には「とても偉い人」がいて、俺と話をしたがっているそうだ。
……俺以外にも、異世界に来た人がいるのか?




