第十二話 猫カフェ、開店
猫カフェは、無事にオープンした。
店の前では、キアラが一生懸命に宣伝文句を叫んでいる。
「猫カフェ、開店しました! 可愛い猫たちが、あなたを癒やします! 一回五十銅貨で、思う存分猫と触れ合えます!」
その声は、迷宮管理局の前まで届いていた。
通行人たちが足を止め、店の前に置かれた看板を覗き込んでいく。
「異世界初! 猫と触れ合える癒やしの空間——猫カフェ」
「冒険者の疲れを、ふわふわの毛並みが癒やします」
「地球人スタッフが、あなたをおもてなしいたします」
まあ、地球人スタッフというのは俺のことだが、実際に接客しているのはキアラだ。
そして、この看板の横に立つキアラの姿が——もう、反則級に可愛かった。
白と黒のメイド服。フリルのついたエプロン。頭には猫耳カチューシャ。
最初は恥ずかしがって、なかなか着てくれなかった。
「こ、こんな格好、できないよ……」
「キアラ、似合うって。絶対似合うから」
「で、でも……」
「お願いだ。どうしてもって言うなら……そうだな、猫と一緒に寝る権利をあげる」
「……本当?」
「ああ。三ちゃんも、他の猫たちも、キアラと一緒に寝ていいぞ」
「……分かった。着る」
こうして、キアラはメイド服を着ることになった。
結果は——大正解だった。
「お、お姉さん、可愛い!」
「猫も可愛いけど、店員さんも可愛い!」
「す、すみません、すみません!」
キアラは照れながらも、一生懸命に接客している。
その姿を見ているだけで、俺の経験値も増えていく。
だって、キアラが猫を抱いているからな。
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開店から一時間。
店の中は、すでに満員だった。
地球人たちが次々とやってきて、猫たちと触れ合っている。
「この猫、めっちゃ可愛い!」
「バンコクにいたとき、猫カフェ行ったことあるけど、ここも負けてないな!」
「まさか異世界で猫カフェに行けるとは思わなかった」
「雅人、お前、天才だよ」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
俺はカウンターの後ろで、状態画面を確認していた。
召喚数:20匹
平均獲得経験値:猫を1回撫でるごとに100ポイント
売上:1人あたり約200銅貨
異世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨の三段階だ。
50銅貨で入店、その後、餌やおもちゃを買う客もいる。
平均すると、1人あたり200銅貨くらいの売上になる。
「この調子なら、一週間でさらに5レベル上がって、新しいスキルを選べるな」
俺は心の中で計算する。
そして、貯金も——おそらく一万銅貨にはなるだろう。
「雅人、すごいね」
ニーナが横に来て、猫を抱きながら言った。
「まあ、キアラのおかげだよ」
「キアラちゃん、本当に頑張ってるもんね。あのメイド服、可愛いし」
「だろ?」
「……雅人、デレデレしてる」
「してない」
「してるよ」
ニーナは笑いながら、また猫の方へ戻っていった。
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夕方になり、客足が少し落ち着いた頃。
「よう、雅人!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、ラジが立っていた。
「ラジ! 来てくれたのか!」
「当たり前だろ」
ラジは店内を見回し、感嘆の声を上げる。
「すごいな……猫がこんなにいる。それに、みんな楽しそうだ」
「まあ、地球人ばかりだけどな」
「それでも、十分だろ」
ラジはカウンターに座り、猫を一匹抱き上げた。
「……なあ、雅人」
「ん?」
「お前、この店の店員、キアラちゃんだよな?」
「ああ」
「……お前、俺たちのパーティーで最初に彼女作った奴だな」
「は?」
俺は思わず変な声を出した。
「いや、だって、キアラちゃん、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。しかも、お前のために一生懸命働いてる。これ、彼女じゃないわけないだろ」
「ち、違う。キアラはただの店員で……」
「ふーん?」
ラジはニヤニヤしながら、猫の頭を撫でている。
「羨ましいな。俺も異世界でエルフの彼女とか欲しい」
「無理だろ」
「だよな。でも、夢くらい見させてくれ」
ラジは笑いながら、猫を抱えて店の隅へ行った。
その後ろ姿を見送りながら、俺は小さくため息をついた。
……キアラとの関係。
確かに、俺はキアラのことを大切に思っている。
可愛いと思うし、一緒にいて楽しい。
でも、それが恋愛なのかどうかは——まだ、よく分からない。
「雅人?」
「うわっ」
振り向くと、キアラがすぐ後ろに立っていた。
「どうしたの? 顔、赤いよ?」
「な、なんでもない」
「そう?」
キアラは首をかしげながら、猫を抱き直した。
「あ、そうだ。雅人、今日の売上、集計したよ」
「お、ありがとう。いくらだった?」
「えっとね——」
キアラが紙を取り出した、そのときだった。
店の扉が、勢いよく開いた。
「——ここが、猫カフェか」
入ってきたのは、一人の女だった。
長い銀髪。鋭い目つき。腰には剣。
そして——その服は、明らかに高級なものだった。
「あんたが、猫召喚士の雅人か?」
女は真っ直ぐに俺のところへ歩いてくると、俺の顔をじっと見つめた。
「……誰?」
「私は、アセラニア王国近衛騎士団所属、セリア・フォン・アセラニア」
その名前を聞いて、店の中が一瞬にして静まり返った。
「王女殿下が、お前を呼んでいる」




