↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/17

第十話 蒼藍傘の加護


「た、助けてくれ! ラジたちを!」


その隊員は全身血だらけで、立っていることもできず、その場に膝から崩れ落ちた。


俺は駆け寄って、彼を支えた。


「何があったんだ? ラジたちはどうした?」


「第四階層……突然、ものすごく大きな魔物が現れたんだ……スライムに似ていたけど、スライムとはまったく違う……俺たちじゃ、まったく歯が立たなかった……」


彼は息を切らしながら、途切れ途切れに話した。


「ラジが俺に助けを呼びに戻れって……他のみんなは、あの魔物を食い止めるために残ってる……」


俺が顔を上げると、ハクさんはすでに立ち上がっていた。


その顔は、さっきよりもずっと険しくなっている。


「第四階層? あの馬鹿ども! そこは迷宮ボスだ」


ハクさんは腰の酒壺を掴み――そして、手を離した。


「……ちっ。今から向かっても、間に合わねぇ」


「どうして?」


「第一階層から第四階層まで、最短でも五十分はかかる。ボスの前じゃ、ラジたちはそんなに長く持たねぇ」


五十分。


間に合わない。


ハクさんの言う通りだ。


もし迷宮ボスがスライムより遥かに強いのなら、ラジたちは俺たちが到着するまで持たない。


「まあ、これも当然のことだ。地下迷宮で死者が出るのは珍しくない。油断や自信のせいで死ぬ冒険者も多い。ラジたちが死んだとしても、それはみんなに経験を――」


「ハクさん」


遮られたハクさんは、明らかに不機嫌そうだった。


「ん? 先に言っておくが、あいつらを助けるだけの理由はねぇぞ」


「そうです。でも――」


「俺は、自分の猫を助けたい」


「猫?」


「ああ。戻ってくる前に、ラジのところに一匹残してきたんだ。みんなが話すための翻訳用にな」


ハクさんは一瞬、呆然とした。


そして眉をひそめ、隣にいる猫を見下ろした。


「可愛いが――」


「戦う必要はありません。ただ、猫を連れて帰るだけです。もちろん、機会があるならラジも連れて帰ります」


ハクさんは数秒、俺を見つめた。


そして、ため息をついた。


「……分かった。俺も一緒に行く。ニーナ、お前はここに残れ。負傷者の面倒を見て、それから他の連中には来るなと伝えろ」


「分かった」


ニーナは頷き、それ以上何も言わなかった。


「来い、小僧。覚えておけ。お前の猫を助けるんだから、魔石を借りにしてもらうぞ」


「魔石?」


ハクさんは次の階層へ向かう通路には入らなかった。


代わりに、俺たちが迷宮へ入るときに使った魔法陣のところへ向かった。


ハクさんは懐から一本の瓶を取り出した。


栓を抜き、中に入っていた紫黒色の石を魔法陣の上へと流し込んだ。


「第四階層、ボス部屋」


ハクさんがそう言い終えると、魔法陣から放たれた光が俺たち二人を包み込んだ。


地下迷宮に入ったときと同じような、不快な感覚を覚える。


そして、光が消えると、俺はどこかの通路に立っていた。


通路の先には、下へ続く階段がある。


階段の下には、開けた空間が広がっていた。


四方八方から青い光が差し込み、空間全体がまるで水の中のように照らされている。


そして、その青い光の中央には――


ラジが膝をついていた。


片手を地面につき、もう片方の手で脇腹を押さえている。


服は大きく引き裂かれ、指の隙間から暗い赤色の血が滲み出ていた。


ラジだけではない。


他のみんなもいる。


みんな傷を負っているようだが、まだ意識を失っている者はいない。


あの子猫は盾の後ろで震えている。


よかった。まだ間に合った。


そして、みんなの前にいるのは――


巨大で半透明な、クラゲのような生物が空中に浮かんでいた。


その身体からは淡い青色の光が放たれている。


触手のようなものが身体の下から垂れ下がり、その一本一本が成人男性ほどの太さをしている。


「ラジ!」


俺は声を上げた。


ラジが顔を上げる。


その顔は驚愕に満ちていた。


「雅人、ハクさん……どうして来たんだ……逃げろ! こいつは強すぎる!」


「水属性か。そいつはよかった」


ハクさんがそう言うと、俺の隣から姿を消した。


そして、ボスの上に現れた。


腰から剣を抜き、叫ぶ。


「斬・雷電!」


その直後、部屋全体にバチバチという音と、目をくらませるほどの電光が満ちた。


ボスの身体が激しく揺れ動く。


みんなは地面に伏せ、ハクさんの攻撃に巻き込まれないよう警戒している。


うわっ、こ、これが伝説の雷神なのか?!


ハクさん、本当に強い。


「ラジ! まだ動けるか?」


「動ける!」


「俺を手伝え! あいつの側面を攻撃するんだ!」


ハクさんの指示を聞いたラジは、剣を拾い、歯を食いしばって駆け出した。


だが、駄目だった。


ボスにダメージを与えられるのは、ハクさんだけだ。


他のみんなは、触手から噴き出す水柱に吹き飛ばされていく。


水柱を避けたとしても、斬撃だけでは与えられるダメージがまったく足りない。


俺は意識を集中させ、あの巨大なクラゲを見つめた。


俺に何か、できることはないのか?


すると。


俺の頭の中に、声が現れた。


それは言葉ではない。


ただ――感覚だった。


寒い。


疲れた。


お腹が空いた。


ここにいたくない。


家に帰りたい。


――


どういうことだ?


まさか。


「ハクさん!」


俺は大声で叫んだ。


「ボスを攻撃しないで、天井を攻撃してください!」


「何?」


ハクさんは呆然とした。


「こいつは閉じ込められているんです」


俺は続けた。


「帰りたがっている。でも、帰れない。誰か――あるいは何かに――ここに縛りつけられているんです」


ハクさんの表情が変わった。


彼はあのボスを長い間、見つめていた。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「なるほどな。分かった」


ハクさんは剣を掲げた。


ボスではなく、部屋の天井に向けて。


電光が剣に集まり、花火のように飛び出して、天井に穴を開けた。


その直後、水母の身体が光り始めた。


どんどん明るくなる。


どんどん明るくなる。


そして――


それは無数の光の粒へと変わり、ゆっくりと上昇していった。


光の粒は空中をしばらく旋回すると、天井に開いた穴の方向へ向かって、浮かび上がっていった。


「行っちまったな」


ハクさんはその場に立ったまま、光の粒が消えていくのを見ていた。


その表情は複雑だった。


「ハクさん、あいつはどこへ行ったんですか?」


ハクさんは酒壺を持ち上げ、一口飲んだ。


「……知らねぇ」


戦いが終わると、ラジは地面に倒れ込み、大きく息を吐いていた。


「雅人、どうしてあいつの弱点が分かったんだ?」


「猫が教えてくれた」


「猫?」


「ああ。翻訳スキル……どうやら、人間の言葉だけを翻訳できるわけじゃないみたいだ」


ラジはしばらく黙っていた。


そして、笑った。


「お前……最初は、みんなお前が一番役に立たないと思ってたのにな」


「俺もそう思ってた」


「それなのに今は――お前が俺の命を救った」


「ありがとう、雅人」


「礼なんていい。お前がここで死んだら、どうやって一緒に地球へ帰るんだ?」


ラジは一瞬、呆然とした。


そして、大声で笑った。


「その通りだ!」


ハクさんは隣で酒を飲みながら、俺たちを見ていた。


「ほら、笑ってないで。負傷者は早く戻さねぇとな。ここには長くいられねぇ」


そう言うと、ハクさんは酒壺の酒をラジの傷口にかけた。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」


「ちょっと我慢しろ」


ラジの傷口が、目に見える速さで治っていく。


本当に不思議な酒だ。


俺は手を伸ばし、ラジを引き起こした。


「行こう、隊長」


「ああ」


ラジは俺の手を握り、立ち上がった。


第一階層に戻ると、ニーナが他のみんなを連れて入口で待っていた。


俺たちが戻ってくるのを見て、人々から歓声が上がった。


ラジたち負傷者は連れていかれ、さらに治療を受けることになった。


ハクさんの酒も万能というわけではなく、どうやら身体の潜在能力を引き出しているだけらしい。


俺は隅に座り、壁にもたれながら目を閉じた。


今日はあまりにも多くのことが起きた。


疲れた。


でも、収穫はあったかな?


俺はステータス画面を確認しようとした。


? これは何だ?


画面を開くと、ステータス欄にクラゲの形をしたアイコンが一つ増えていた。


『蒼藍傘の……加護?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。