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第九話 ラジの決意


「すみません。俺の言っていること、聞き取れますか?」


……え?


俺は固まった。


さっきの声――インド語みたいだ。


しかも、俺の故郷の人たちと同じような訛りだ!


俺は思わず周囲を見回した。


他のみんなも固まっている。


みんな、奇妙な声を聞いた。


「みんな、聞き取れる?」


話しているのは……あの日本人だ。


名前は雅人。


どういうことだ?


こいつは日本語以外の言葉を話せないはずだ。


「うん、聞こえる。でも、どういうこと?」


「俺、レベルが五になって、スキルを手に入れたんだ」


「召喚した猫が近くにいれば、聞いた言葉と俺が話した言葉を自動的に翻訳できる」


ああ、そういえば――


今になって気づいた。


この日本人は、確かに腕の中に一匹の小猫を抱いている。


「俺、先に戻ってもいいかな? もちろん、猫はここに残していくよ。みんなが互いに話すのにも便利だろ?」


「まあ、助かるよ。じゃあ、戻ってくれ」


「猫召喚士……本当に侮れない能力だな。俺たちと同じだと思ってたのに、まさか……」


雅人が去っていく背中を見ながら、ジャックの言葉には少しだけ羨ましさが混じっていた。


そして、寂しさも。


今では、みんなが簡単に話せるようになった。


それなのに、誰も何も言わなかった。


恐らく、みんなが考えていることは同じだ。


最初は、みんなゴミ職業だと思っていた。


それなのに――


レベルアップした雅人は、もう俺たちを追い越してしまった。


異世界に来た俺に与えられたのは、『携帯電話修理士』なんていう、ここでは使い道のないゴミ職業だけ。


レベル五になって手に入ったのも、『高速修理』なんていうスキルだ。


こんなもの、役に立たない。


「異世界に来たんだから、もしかしたら……楽観的な精神で、失敗続きだった自分を変えられるんじゃないかって……」


俺は拳を握りしめた。


「せっかく隊長にまでなったのに、結局は他人に負ける。インドにいたときと同じように、また簡単に追い越されるのか?」


「俺……俺は、他のやつらに置いていかれたくない」


俺は顔を上げ、第三階層へ続く通路を見つめた。


そして、何の迷いもなく、さらに奥へ向かって歩いていった。


俺は何か命令を下す必要もない。


何かを多く話す必要もない。


なぜなら、他の「精鋭」メンバーたちの目にも、俺と同じものが隠れていたからだ。


……


「なんでお前一人なんだ? ラジたちはどうした?」


俺がニーナと話しているのを見て、ハクさんが俺に尋ねた。


「俺、先に戻ってきました」


「ん? お前、共通語を話してるのか?」


「ええ、この子のおかげです」


俺は腕の中の小猫を抱き上げ、ハクさんに見せた。


「スキルがレベルアップしたんです。猫が近くにいれば、話す言葉も聞いた言葉も翻訳できます」


「翻訳できるのか?」


「本当にそんなにすごいのか?」


「まさか、嘘をついてるんじゃないだろうな?」


「お前、今俺が話していることが聞き取れるか?」


ハクさんは立て続けにいくつもの言葉を話した。


「えっと……人を勝手に疑うのは、あまりよくないと思いますよ、ハクさん」


俺は思わずハクさんを見た。


ハクさんの目つきが変になった。


「精霊語」


「グルガラ語」


「共通語」


「田舎の方言」


「俺は今、四種類の違う言葉を使った。お前の耳には全部日本語に聞こえるのか?」


「俺にはロシア語に聞こえますよ」


答えたのはニーナだった。


ハクさんは彼女のほうを振り向き、眉を上げた。


「ニーナにもできるのか?」


ハクさんは何かを考えるように頷いた。


「たぶん、十メートルくらいだと思います。それ以上離れると、できなくなります」


俺は試しに、ハクさんと話しながら少し離れてみた。


やっぱり、猫から離れると翻訳の能力が消えた。


聞こえてくるのは、まったく理解できない言葉だけだった。


俺の能力を確認すると、ハクさんは座り込み、酒壺を取り出して一口飲んだ。


「猫召喚士ってのは、確かにいい補助職だな」


「ゴミ職業だと判断されたのは、間違いなく国王の見る目がなかったってことだな」


「あいつは昔からそうだったんだ。いつも知らないうちに大事なものを失くしている」


「えっ、ハクさん、その言い方……もしかして国王とはかなり親しいんですか?」


俺は思わず尋ねた。


ハクさんは少し黙った。


そして、何気なく言った。


「親しいってほどじゃない。ただ、あいつが子供の頃から、今みたいに白い髭だらけになるまで見てきたのは確かだ」


ハクさんは一度言葉を止めた。


「エルフは長生きできて、本当にいいもんだな」


その声が感慨なのか、それとも自嘲なのかは分からなかった。


……


そのとき――


「た、大変だ!」


一人の人影が、通路からよろめきながら走ってきた。


パーティー『earth』のメンバーだ。


その服には、暗い赤色の液体がびっしりと付着している。


「た、助けてくれ!」


「ラジたちを……助けてくれ!」



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