↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/70

番外編1 結婚式の後に待っていたもの


「つかれた」


 ようやく全てが終わり私は離宮へと戻ってきた。

 夢にまで見た結婚式。それ自体はとても良かった。

 みんなに祝福されて、あんな盛大な結婚式をあげて。

 今でも思い出すと顔がにやける。

 本当にいい結婚式だった。

 でも、問題はその後だった。

 そう、その後。






 結婚式の後、国民達に王妃のお披露目と挨拶が行われた。

 私は陛下にエスコートされながら、結婚式の格好のまま城のバルコニーに出る。そしてそこから見下ろしたその景色を見て、私は息をのんだ。

 まさに圧巻だった。どこ見ても人、人、人の波。あまりの国民達の数に私はただ驚いた。

 もちろん、国の王妃様のお披露目なのだからある程度の人達は来るとは思っていたけど、ある程度どころか、国中の人達が私と陛下を見に来ていた。

 さすがは五大国にはいる、アルフガルト王国。

 これじゃあ、私の祖国なんて相手にならない訳だわ。

 離宮の使用人達から聞いた話だと陛下はこんなに無愛想な顔をしているのに国民達からの人気は凄いらしい。

 本当にこんなに愛想がないのに。

 ちらりと陛下を見る。陛下はにこりともせず、いつも通り不機嫌そうな顔で静かに国民達を見下ろしていた。

 こう、もっとサービス精神みたいなのはないのかな。

 まあ、陛下にそんなこと言っても無駄だろうけど。

 仕方ない。ここは私がサービスしておくか。

 私はにっこりとお姫様らしく微笑み、そっと手を振る。すると国民達の歓声がますます上がった。

 それに陛下は何故か眉をひそめる。


「おい、何をしている」

「何って、陛下の変わりにサービスしています」

「サービスだと?」

「陛下があまりにも愛想がないので、私が変わりに愛想良くしてあげているんですよ」

「なんだと?」


 陛下の目つきがきつくなる。

 何だか知らないけどちょっと怒ったみたいだ。

 今のどこに怒るところあったかな。陛下が愛想ないってところ?そんなの今更言われなくたって、自分でわかっていたでしょう。

 しばらく陛下は私を不満そうに睨んでいたが、ふとにやりと笑った。

 嫌な予感がした。


「そうか、サービスか。では、これもそのひとつだな」


 陛下はそう言うと自分の腕から私の手を離し、空いたその手で私の肩を抱いた。


「っ!?」


 突然抱き寄せられ、私は陛下の胸に寄りかかるようになる。当然ながら身体がさっきよりも密着する。


「陛下」

「なんだ?」


 なんだじゃないでしょう!?いったい、ぜんたい、何を考えているんですか!?

 もう、歓声が凄い!さっきまでの比じゃないくらいの歓声が上がっている!

 というか、それどころじゃない!

 どうしてそうやって、勝手なことするかな!?付き合わされる私の身になってよ!?

 本当なら今すぐ抵抗してやりたいところだけど、国民の前でそんなことできるはずがない。陛下もそれがわかっているのだろう。

 にやにやと意地の悪そうな笑顔を浮かべている。

 もう、後で絶対に覚えてなさいよ!

 結局、私はお披露目の間、ずっと陛下に抱きしめられながら、笑顔で手を振り続けた。






 やっと、国民達へのお披露目が終わったかと思ったら、今度は貴族の方々へとお披露目会が行われた。

 今度は赤い、これまた豪勢なドレスに着替えさせられる。陛下の服は私のドレスと対になるように同じく赤を基調に作られたこれまた豪勢な服だった。

 うわあ、なんだか、ペアルックみたいだ。

 正直恥ずかしいし、止めてほしい。

 しかし私に文句を言う暇などなかった。

 支度が整うとすぐに陛下にエスコートされて、今度は城の会場へと向かう。

 そこからはとにかくめまぐるしかった。

 終わらない挨拶回り。代わる代わる同じような人達に挨拶をされ、お祝いを述べられる。

 しかもその挨拶の途中で何回も着替えさせられるドレス。話は聞いていたけどまさにそれは苦行以外の何ものでもなかった。

 こんなにきついなんて。

 途中から私は疲労感で何も言えなくなっていた。そんな私を陛下は黙って気遣うように支える。

 陛下はやはり慣れているのか、それとも体力があるのか、まったく疲れた様子はない。いつも通り無愛想な顔をしたまま、貴族達の挨拶に答え続ける。

 いつになったら終わるんだろう。もう、早く終わって。

 私の願いもむなしく、それは夜まで続いた。






 そうして、やっと今、それら全てを終わらせ、私は自分の部屋へと戻ってきたのだ。

 もうね、疲れた。いや、もう、本当に無理。

 覚悟はしていたけどね。覚悟以上だった。いや、私が甘かったわ。

 あまりの疲労感にベッドにだらしなく横になる。

 今なら寝られる。いや、もう寝かせて、お願い。

 そう思い、私は瞼を閉じる。

 すぐに意識が遠のく。今にも眠りに落ちようとしていたその時、手加減のない強さで私の身体が激しく揺すられる。

 い、いったい何!?

 慌てて目を開けるとルイザが必死な顔をして私を揺すっていた。


「レティシア様!いけません!寝ないで!寝ないで下さい!」

「いやよ!私はもう寝る!寝るの!寝るったら、寝る!」

「いけません!起きて下さい!」

「どうしてそんなことを言うの!?もう全部終わったのに、何で休ませてくれないのよ!私すっごく頑張ったんだから、もういいでしょう!?寝かせて!」


 そう言って、私は意識を手放そうとする。しかしルイザはそれを許さない。

 「失礼します」とか言って、眠りかけた私の頭を勢いよく叩く。予想外の攻撃に思わず私は起きる。

 ねえ、ルイザ。貴方、本当に私に使える侍女よね。私が主人で合っているのよね?

 もう少し敬いなさいよ!私じゃなかったら、これ大問題になっているからね!?


「もう、なんなのよ!」

「姫様!起きて下さい!このまま寝るなんて許されませんよ!?」

「もう全部終わったじゃない!」

「何を言っているのですか!?これからが本番ですよ!?」


 本番?え?何を言っているの?

 疑問を浮かべる私にルイザは心底怖い顔をして見る。そんな顔されても正直、困る。

 まだ何かあった?結婚式も終わった。国民へのお披露目も、貴族への挨拶も終わった。これ以上のことは説明をうけていないし、やるなんて聞いていないんですけど。

 私がそう言うとルイザは何故か今度は顔を青くして私を見る。


「まさか、本気でわからないのですか?」

「わからないけど」


 私の返答にルイザは顔を両手で覆い、その場で膝をついて崩れ落ちる。あまりのその態度に私は思わず顔をひきつらせる。

 どうしたのよ。いったい。


「あの、ルイザさん?」


 恐る恐る問いかけるとルイザは立ち上がり、今度は凄い剣幕で私に詰め寄る。


「いいですか!?婚儀を終えたということはレティシア様と陛下は既に夫婦になったのですよ!?」

「そ、そうね」

「夫婦になって最初の夜にやることと言えば!?あるでしょうが!?」

「え?」


 夫婦になって最初の夜にやること?

 ルイザは真剣な表情でそう問いかけてくる。

 何それ。そんなこと言われても困る。そもそも私なんて前世でも恋愛と無縁に生きてきた人間だ。当然、夫婦になってやることなんて、わかるはずがない。

 しばらく一生懸命考えてみたけど、やっぱりろくなものは思いつかなかった。

 私は仕方なくそれっぽいものを答えてみる。


「えっと、家事の分担を決めるとか?」


 私のその答えにルイザは再び、がっくりとうなだれた。

 どうやら回答を間違えたようだ。

 まあ、なんとなく違うとは思っていたけど。

 そんなことを思っていると、ルイザが立ち上がり、私の肩を掴む。肩を掴む手が痛いのは気のせいじゃないだろう。

 ルイザは叫ぶように私に言う。


「何を言っているのですか!?初夜ですよ!初夜!陛下がこのお部屋に来て、姫様と身体を重ねられるに決まっているじゃないですか!」


 え?

 ルイザのその一言に私の思考が止まる。

 初夜。ああ、そうか、初夜か。初夜ね。あの初夜ね。

 初夜!?


「えええええええ!?」


 私は思わず叫ぶ。

 やっと理解した私にルイザは酷く安堵したような表情をしているが、もはやそんなことどうでもいい。

 初夜。そうだよ。どうしてそれを考えなかったのか!私のばか!

 そう、婚約者同士であっても夜を共にすることは許されない。でも、夫婦になったら、もはや関係ない。

 というか、結婚したら夜を一緒に過ごすべきだと考え、寝室は夫婦一緒になることが多い。

 当然、私と陛下もそうだ。


「いやいや、待って!でも、まだ、今日までは離宮で私過ごすんでしょう!?なら、陛下は来られないんじゃ!」

「来ますよ!初夜ですから!」

「そ、そんなの聞いていない!」

「説明する訳ないでしょう!?暗黙の了解ですよ!」


 ルイザにそう言われ、私は思わず愕然とする。

 そう、今思えば、その通りである。

 初夜が無いわけがない。結婚したらその次は、その次は。

 「王妃様の一番のお仕事は陛下の子を産むことですから」

 そう言っていた司教様の言葉を思い出す。

 そう、その一番のお仕事が遂にきてしまったのだ。

 私は顔を青ざめる。

 もちろん知識ぐらいはある。しかし、知識があるのと実践は違う。前世を含め、私は当然ながらそのような行為をしたことは一度もない。

 そう、初めてな訳で。

 やり方なんて全然わかりませんけど!?

 私は思わず泣きそうになりながらルイザを見る。ルイザはさっと視線をそらす。

 裏切り者と言いたいところだけど、こればっかりはどうしようもない。ルイザだってどうしようもできないし、これは教えてどうにかなるものじゃない。

 たぶん、レティシアの記憶の中にはそう言った行為の仕方もあったはずだ。初夜で無様な失態をしないようにきちんとそういう教育を受けたはずなのだ。

 でも、私にはその記憶は一切なかった。

 ど、どうしよう!?必死に思い出してみるけど、全然思い出せない!というか、未だにレティシアの記憶は曖昧で、私の前世の記憶の方が鮮明なんですけど!?


「姫様、あの、もしかして、陛下とするのが嫌なのですか?」


 あまりにも狼狽する私を見かねたのか、ルイザが若干顔色を悪くしながらそう尋ねる。

 まずい!このままではいらぬ誤解が生まれる!


「ち、違うわよ!陛下との行為が嫌な訳じゃないの!」


 もちろん、本当に行為が嫌なわけじゃない。

 でも、ね。わかって。

 初めてなの!何だって初めては怖いものなの!

 あの陛下が乱暴に何かするとは思わないけど、陛下だって男の人。実際、本番はどうなるかなんて誰にもわからないじゃない!?

 どうしよう。実は夜になると人が変わるような人だったりして。

 そんなワイルドさは誰も期待してないからね!

 私は顔を両手で覆い、俯く。黙り込む私をルイザは心配げに見る。

 本当にどうしよう。

 しばらく悶々と考えてから、私は意を決して、顔を上げる。


「その、パスとかないよね?」


 私のその言葉にルイザは顔をひきつらせる。


「ある訳ないでしょうが!?」


 ルイザの絶叫が部屋いっぱいに響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。