55.たわいないやりとり
「姫様、気を付けてくださいね」
「ありがとう」
私はそう言って、馬車から降りる際に手を貸してくれた騎士を見る。
ツヴァイだ。いつもの格好とは違い、騎士の恰好をし、彼は私の隣に立つ。ツヴァイの正体がわかった今でも、何だか少し妙な感じがする。ついこの間まで庭師だった彼が私の隣に立つなんて。
ツヴァイは私の視線に気付くといつもの爽やかな笑みを浮かべる。格好は変わっても中身は変わらない。いつものツヴァイだ。そのことに私は少し安堵した。
もちろん今日私についているのはツヴァイだけじゃない。ツヴァイの隣にはラルフが、そしてその後ろにクライドがいる。
つまり私の護衛の騎士は今3人ついている状態だ。しかもその中の2人は陛下の護衛騎士もしていた程の実力者である。ということは、やはり今日の夜会はそれだけ危険が高いということなのだろう。
事前に陛下から聞いていたとはいえ、やはり緊張する。私は大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
大丈夫みんながついているし、会場に行けば陛下だっている。だから危険なことなんて起こる訳がない。
そう自分に何度も言い聞かせる。それでもなかなか不安は消えない。
私はわざと気分を変えるために、できるだけ明るい声で言う。
「今日のドレスはどう?」
「綺麗ですよ。陛下が選ばれたのですか?」
「そうよ」
私はそう言って、自分のドレスを見る。今日のドレスは淡い青のドレスだ。
以前の舞踏会のものに比べるとややおとなしめな雰囲気のものになっている。とはいえさすがは姫君の着るもので、豪華さや煌びやかさは前のに負けていない。
レースや飾りが少ないかわりに体のラインがよくでる形になっていて、どちらかと言うと花嫁衣裳のドレスに近いデザインだった。
前のドレスよりこちらの方がデザインは気に入っている。何よりもいいことはドレスが舞踏会のものに比べて軽いことだ。今回はヒールもわざと低いものを選んだ。
これならば何か起きても走ることぐらいはできる。
まあ、何も起こらないのが一番なんだけど、いざとなったら私は逃げなければいけない。
陛下を心配させないように。
「姫様、今夜はどうか我々から離れないで下さい」
「わかったわ」
ラルフの言葉に私は力強く頷く。それにラルフは少しだけほっとしたような顔をする。ツヴァイの方はいつも通りだが、ラルフはやや緊張しているようだ。その顔がいつもより硬い。
何事もなく無事終わればいいな。そう思っているとクライドが「姫様」と言って、私の前に出てくる。
「俺も、俺も精一杯守りますから!」
「ありがとう」
クライドはどうやらいつも以上に気合が入っているようだ。
私がお礼を言うとクライドは嬉しそうな顔をする。そんなクライドを見て、ラルフは顔をしかめる。
「お前は自分が怪我をしないように気をつけていろ」
「そ、そんな。酷いですよ」
クライドはわかりやすく肩を落とす。そんな二人のやり取りを見て、私はツヴァイにそっと言う。
「なんだか、親子みたいね」
「あはは。そうですね。クライドはああ見えて、優秀なんです。いずれは王室騎士にもと考えていまして、ラルフが直々に指導しているんですよ」
「そうなんだ」
なるほど。つまり師弟関係ということらしい。どうりでいつもクライドはラルフに怒られていると思った。今もまた、ラルフの説教じみた言葉をクライドは大人しく聞き、しゅんとしている。
「ラルフは厳しいですが、ああ見えてクライドに一番期待しているんですよ。酔うといつもクライドの話ばかりするんです」
それは意外だ。驚く私にツヴァイは爽やかな笑みを浮かべたまま言う。
「今のは内緒ですよ」
そして、ツヴァイは私から離れ、2人に声をかける。
「ラルフもそこまでにしてくれよ。そろそろ行かないと姫様が遅れてしまうぞ」
「わかっている!」
ラルフは少しだけ罰の悪そうな顔をし、ツヴァイから視線を逸らす。クライドはほっとしたような表情をしている。
たわいもないやり取り。たったそれだけのことで、私の気持ちは和んだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
そう言ってツヴァイが私を見る。
大丈夫。私はもう一度心の中で呟くと顔を上げ、「はい」と元気よく答えた。




