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47.今こそ努力の成果を見せる時


「だから悪かったと言っただろう」

「本当ですよ!前々から思っていましたけど、陛下言葉足りなくないですか!?というか、陛下の気持ちも今日初めて私は聞いたんですけど!?」


 私がそう言って睨むと陛下はぽつりと小さな声で言う。


「仕方がないだろう。余もこうなったのは初めてなのだ」

「え?」


 陛下が初めて?

 思わず陛下の顔を凝視する。陛下は気まずげに私から視線をそらす。

 初めて。そうか。陛下もそうなのか。

 そう思うと何だか妙にすとんときた。


「じゃあ、しょうがないですね。私も初めてですし」


 初めて同士が恋愛すれば、そりゃあこんなにぐだぐだにもなるだろう。まあ、さすがにもうちょっとうまく言っても良かったんじゃないかとも思うけど。


「わかりました。とりあえず一つだけお願いしてもいいですか?」

「何だ?」

「今度からちゃんと私にも教えて下さい。会って話せないなら、せめて手紙を下さい」

「手紙だと?」

「そうです。陛下は色々と自分で何でも解決しようとして一人で抱え込むくせがあります。陛下は優しいから、他の人に迷惑をかけないようにして自分でなんとかしようとしているみたいですけど、実際一人でやるのは色々しんどいと思います」


 さすがに私だって王様なんてやったことないから、陛下がどんな問題を抱えているかなんてわからないし、その苦労もわからない。

 でも、前世を思い返せば社会で潰される人はたいてい自分で色んな問題を抱え込んで自分で何とかしようとする人だった。


「だからこれは、ほうれんそうです!報告!連絡!相談!いいですか?会えないなら、手紙でいいから必ずして下さい!」


 そうすれば少なくとも一人で抱え込むことはなくなる。

 私なんかが何かの役にたつとは思わないけど、事情を知っているのと知らないのでは全然違う。

 少なくとも陛下のことは何でも知っておきたい。

 私のその提案に陛下はしばらく考え込んでから、小さな声でわかったと呟いた。


「そのかわり余からも話がある。いいか?」

「いいですよ」


 確かにこっちだけお願いを聞いてもらうのは良くない。関係はイーブンが理想だ。もちつ、もたれつがいい。

 私が何ですかと問いかけると陛下は私をじっと見つめる。


「陛下?」

「頼むから、もう無茶をするな」


 陛下の顔が歪む。今にも泣き出しそうなそれに私はまた言葉を失う。


「お前に何かあってからでは遅いのだ」


 陛下はそう言って私をまた強く抱きしめる。強く強く、ぎゅうと抱きしめられ、その身体が僅かに震えていることに気付いた。

 私は今になって自分が知らぬ間に陛下にとんでもないことをしたと気付いた。


「ごめんなさい」


 口からその言葉は素直に出た。

 そりゃあ、そうだろう。ここまで、自分のことを心配してくれた相手に、謝罪以外の言葉が見つからない。


「えっと、その、陛下もしかして、かなり心配しました?」

「当たり前だ。寿命が縮んだ」

「ええ!?ちょ、大丈夫!?」


 寿命って、ええ!?

 予想以上に陛下が心配していて、正直驚く。

 いや、よくよく考えれば、そもそも陛下はかなり心配症なところがある。

 このまま好き勝手やっていたら、そのうち陛下の胃にストレスで穴があくかもしれない。


「わかった、わかりましたから!もう陛下に心配かけないようにしますから!」

「本当だな?」

「はい!」

「そうか」


 陛下が心底ほっとしたような顔をする。

 うわあ。私、どれだけ心配されていたんだろう。うん、今度から気をつけよう。

 ようやく陛下が私から離れた。やっと解放された。

 そう思ったと同時に寂しくも思うなんて、私もずいぶん変わったなと思っていると陛下が口元に手を当てなにやら考え込んでいる。


「手紙。そうか手紙か」


 陛下はそう呟くと私を見る。その顔はいつもの陛下に戻っていた。

 今度は私がほっとした。やっぱり陛下は無愛想な方がいつもらしくていい。


「今度、お前に手紙を送ろう」


 そう言って陛下はにやりと笑う。

 その笑みになんだか嫌な予感がした。そしてそれは見事に命中する。 


「恋文を」

「へ?」


 陛下の予想外の一言に私は顔をひきつらせる。

 あの、陛下聞いていました?ほうれんそうだって言いましたよね?私が欲しいのはそういうものじゃないんですよ!?


「それでお前も少しは自覚できるだろう?」

「ちょ、そ、それは駄目!」

「なんだ?欲しくないのか?」

「そうじゃないけど、どっちかって言うと欲しいけど、でも」


 というか恋文ってラブレターでしょう!?そんなものもらったことないから!しかも好きな相手からでしょう!?いや、無理!無理だわ!?

 顔を真っ赤にさせて慌てる私を陛下はにやにやと笑って見ている。

絶対遊ばれている!

 悔しくて、一人でうーうー唸っていると陛下はふと、階段の方を見る。


「陛下?」

「レティシア。約束を覚えているか?」


 約束。

 その言葉にどきりと胸が高鳴る。約束と言えば一つしかない。

 もう一度連れて行く。そう陛下とこの上で約束した。そして陛下はその約束をちゃんと覚えていてくれたのだ。


「ここまで、来たのだ。せっかくなら約束を守ろう」


 そう言って陛下は私に手を差し出す。私よりも大きなその手を。


「一緒に登らないか?」

「はい!」


 私は笑って、そっと差し出された手に自分の手を重ねる。陛下はその手を引く。私はそれについて行く。

 やっと約束を叶えるその日がきたのだ。


「陛下!」

「なんだ?」

「見ていてくださいね!」


 私は得意げに笑う。

 そう、今こそ私の筋トレの成果を見せる時だ!

 私は陛下の手を離し、勢いよく階段を登り始めた。







「どうです!陛下!」


 私は自慢げにそう言う。

 そう、以前の私とはもう違う。

 見よ!かろやかになった、この足取りを!

 息切れはするけど以前の苦しさに比べれば今は耐えられないほどではない。

 まさに筋トレの成果!

 着実に筋肉はついていると思っていたけど、こうも目に見えて成果が出るとなんだか嬉しい。

 私は振り返る。陛下は私の後ろについて階段を登っている。あの時とはまさに逆だ。


「すごくないですか!?ほら!?」


 満面な笑みでそう言い、陛下を見下ろす。

 これだ!まさにこれをしたかった!

 私は思いっきりどや顔を決める。

 てっきり賞賛の声がくると思ったけど、いつまでもたっても陛下は何も言わない。

 あれ?と思って見れば、陛下は何故かとても不機嫌そうな顔をして私を見ていた。


「陛下?」


 もしかして悔しがっているとか?いや、陛下なら本気を出せば、私の前を歩くことだって可能なはずだ。

 それが何故か、私の後をとぼとぼと元気なさげに歩いて。


「えっと、陛下、どうしましたか?」


 私は階段を下がり、陛下のもとへいく。

 陛下の顔は相変わらず不機嫌だ。さっきまでの笑顔はいったいどこへいったのだろう。


「あの、陛下?」


 不意に陛下の手が伸び、あっという間にまた私は持ち上げられ、横抱きにされる。まるで当たり前のように一切迷いのない動作で。

 そして、そのまま陛下は何食わぬ顔をして階段を登り始める。


「ちょっ、ええ!?ええええ!?」


 私は思わず叫ぶ。陛下は「うるさい」と一言言うだけで、私を下ろす気はさらさらないようだ。


「何で!?何でまたお姫様抱っこ!?登れていたじゃないですか!?完璧だったじゃないですか!?」

「お前だと遅い」

「いやいや、陛下の方が遅かったですよね!?ええ、何で!?」


 せっかく自力で登れるように努力したのに!

 私がいくらそう言っても陛下は私をけして下ろさない。

 結局、私はまた陛下に最後までお姫様抱っこで運ばれることになった。


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