↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/70

43.揺れ動く思い


「やけに騒がしいな」


 オーランドが言ったその一言に人々の話が一回止まる。

 オーランドの言った通りだった。

 先ほどまで静かであったはずの王宮内が徐々に騒がしくなっている。

 兵士達の足音、何かを言い合うような声。普通ではあり得ない。特に賢人会議を行っている今は。

 普段なら水を打ったような静けさの中で行われる会議であるはずなのに。ここまで王宮内が騒がしいとは何かあったとしか考えられない。

 オーランドが騎士の一人に視線をやると騎士が頭を下げ、「確認してきます」と言って部屋の外に出る。そしてしばらくして事情を聴いてきたのか、戻ってきた。


「失礼します!どうやら侵入者が入ったようで」

「何だと!?賊か!?」

「いえ、それが、まだわからず。噂ではどこかの貴族のご令嬢ではないかと」

「何だ、それは?」


 オーランドは報告を聞いて呆れた様な顔をする。王宮内に務める貴族が自分の娘をつれてくることはたまにあることだ。そしてその令嬢が目を離したうちに広い王宮内を迷子になる場合も時としてある。

 もっともその多くは偶然を装い陛下に近づこうとする不届き者が多いのだが。


「それで何故、兵が出ている?」

「それが王宮内に無断で入ったそうで。賊の可能性も否定できないとのことで」


 とはいえ、言い方からして本当に賊だとは思っていないようだ。

 事実この王宮内まで賊が入ることはほぼない。このアルフガルト王国の警備は厳重であり、特に城壁や城内への出入り口は厳しい。その為、ほとんどの賊は城内へ入る前に捕まってしまう。

 もしも賊が入るとしたら、それは国内の貴族の手引きで入るしか考えられない。とはいえ、こんな日中から堂々と入る賊はほとんどいない。

 よってどこかの無礼なご令嬢であるというのが騎士たちの総意であった。

 とはいえ、放置もできない。兵士達はそのご令嬢を現在全力で探し回っているとのことだった。


「陛下どうしますか?」


 オーランドはギルベルトに尋ねる。

 賊が入ったのであれば賢人会議を中断しなければいけない。しかし本当にどこかの無礼なご令嬢であったとするなら、気にするだけ損だ。

 オーランドは確認の為にそう問いかけたが、ギルベルトは予想通りの回答を返す。


「かまわん。続ける」

「はい」


 決めなければいけないことは山のようにあるのだ。

 王妃との婚儀も近く、それまでにギルベルトは少しでも政務を片付けたかった。

 ちらりギルベルトは視線を向かい側の席へと向ける。ギルベルトの向かい側にはフォルト公爵が座っていた。彼はギルベルトの視線に気づくと笑って答える。その笑みを忌々し気にギルベルトは見る。

 側室をもつことをやめたことで、反対派である上位貴族の反発は一気に強くなった。もちろん原因はギルベルトにある。こうなることもわかってはいた。しかしその反発が予想以上に強かったのは、間違いなく反対派の筆頭であるフォルト公爵が先導した結果だ。

 そう誰もが気づいているが、それを責めることはできない。けしてそれは罪に問われることではないからだ。

 もちろんギルベルトもそれをわかっている。

 ここにきていたるところで不備や問題が起き、政務の量が通常の倍以上になっているのも、おそらくはフォルト公爵が裏で糸を引いていると思われるが、それもギルベルトは責めることができない。

 そうやって徐々にギルベルトは追い込まれていた。

 当然ながらギルベルトもそれぐらいで潰れる気はない。とはいえ、ここ最近あまりの忙しさにレティシアのところを訪れる暇さえなくなったことは、正直ギルベルトも堪えていた。

 ギルベルトは王であるが、同時にただの人間でもある。

 心身ともに疲れ果てれば疲弊だってする。

 早く終わればいい。婚儀さえ、上げられれば、レティシアを手元に置くことができる。彼女が王妃にさえなれば反対派の上位貴族だって、うかつに手は出せない。早く日が過ぎれば。

 そうギルベルトが思っていたその時だった。会議室の扉が開く。


「会議中申し訳ありません!失礼します!陛下!火急の知らせが届いています!」


 そう言って、騎士の一人が入ってくる。ギルベルトは表情を変えず、自らの後ろに控える護衛の騎士へ視線をやる。その視線を受けたのはギルベルトに一番長く仕え、信頼の厚い騎士だ。

 銀髪に髭を蓄えたその騎士は名をカインと言い、王室騎士の長を務めている人物でもある。

 カインは騎士のそばにいき、用件を聞く。そして目を見開いた。慌てた様子でギルベルトの元へいくと、頭を下げ、ギルベルトに小さな声で内密に告げる。


「陛下。レティシア様が離宮の外へ出られたそうです」


 それを聞いた瞬間、ギルベルトの表情が凍った。

 外に出た?レティシアが?何故?いったいどこに行った?

 まさか自国に帰った訳ではあるまい。そうギルベルトが思ったその時、不意に先ほど届いた侵入者の知らせを思い出す。

 どこかのご令嬢が無断で王宮内に入ったと言っていた。その令嬢は一体誰か。

 それに気づいた瞬間、ギルベルトの心臓が早鐘のように打つ。

 レティシアが王宮に来ている?ここに?この王宮に?この反対派の上位貴族が集まっているこの王宮内に!?

 ギルベルトの視線が思わず目の前に座る男へといく。何かあったのか察したのか、フォルト公爵が心配そうな顔をして、ギルベルトを見返す。


「陛下、どうされましたか?顔色が悪いですぞ」


 表情をいつものようにすぐに戻さなければいけなかった。しかし、ギルベルトはできなかった。

レティシアがここにいる事実に動揺し、表情を作ることさえ忘れた。

 それにオーランドが気づく。


「陛下?」


 オーランドの問いかけにギルベルトは答えられなかった。縋るようにオーランドを見る。

 オーランドは優秀な男である。たったそれだけで全てを悟った。


「陛下に火急の要件が入った!会議は一時中断とする!」


 オーランドはそう言うと無理矢理会議を中止にする。

 当然ながら王家に反対している貴族派の貴族から抗議の声が上がる。それに対し、ギルベルトを押している国王派の貴族から反対派へ非難の声が上がった。

 一瞬にして会議室内は言い合いとなった。皆の視線がギルベルトから外れる。

 その隙を逃さず、オーランドがギルベルトに声をかける。


「陛下、行きましょう」


 ギルベルトは促されるままに立った。そしてオーランドに着いて退室する。その後を護衛の騎士達が続く。

 その様子をフォルト公爵だけは黙って見ていた。

 普段の完璧な王ではあり得ないその姿を。

 それを見て、勝ち誇ったように笑う。


「やはり、あの姫君が弱点か」


 フォルト公爵は誰に言うでもなくそう呟くとどうするべきか策をめぐらせた。







「陛下、どうされたのですか!?」


 ギルベルトの様子からただ事ではないと気づき、オーランドは会議室から出てすぐに尋ねる。

 ギルベルトの顔色は悪い。最近の無理がたたっているのもあるが、今はそれだけではない。いつもの凛々しい声とは違いギルベルトはかすれた様な声で答える。


「レティシアがここに来ている」

「は?」

「レティシアがここに来ているのだ」


 その答えにオーランドの目が見開かれる。

 あり得ない。そう言いたげな顔にギルベルトも内心同意する。そう、彼もあり得ないと思っている。

 しかし実際起こっているのだ。


「あの離宮からいったいどうやって出たと言うのですか!?」

「そこまでわからん。だが離宮から出たという報告が来た」

「まさか!そんなばかな!?」


 離宮の警備は万全であったはずだ。特に貴族派の上位貴族の勢いが増してからはレティシアに危害がけしていかないように、離宮内の警備は最初よりも更に上がっていた。

 その状況でいったいどうやって出たというのか。

 彼らは知らない。レティシアがそれこそ彼らが想像もつかない方法で離宮を出たことを。彼女がただ守られているだけの姫君ではなかったということを。

 オーランドは全てを聞き、すぐにことの重大性を理解した。

 もしもその事実が本当だとすれば、今まさにレティシアは何の護衛もつけず、この王宮内を逃げ回っていることになる。それはもはや命を狙ってくれと言っているものである。

 間違いなく貴族派に気づかれれば何かしかけられてしまう。

 どうするべきか。

 オーランドが策を練ろうとしている間もギルベルトは足を止めない。

 いったいどこへ行こうとしているのか。

 あることに気づき、慌ててオーランドはギルベルトを止めた。


「事情はわかりました!それで陛下はどこに行かれるのですか!?」

「レティシアを探す」

「探す!?陛下自ら!?いけません!そんなことは認められません!」


 オーランドのその言葉にギルベルトが足を止める。そして振り返り、オーランドを真正面からきつく睨む。


「あれは余の妃になるのだ!余が探さず、誰が探すというのだ!?」


 オーランドは息をのむ。

 その姿にはいつもの冷静な王の姿はなかった。

 ギルベルトがここまで自分の感情を露わにしたことがあっただろうか。いや、一度もない。

 これほどまでに感情のままに動くことなど今まで1度もなかった。

 もちろんオーランドだってギルベルトがレティシアを気に入っていることは知っていた。しかし、ここまでレティシアのことを大事に思っているとは正直思っていなかったのである。

 あまりのギルベルトの気迫にオーランドは言葉を失う。しかし、ここで黙ったままではいられない。

 ここまで感情を露わにしたギルベルトを止められるのはもはや自分しかいないのだから。

 例えそれで逆鱗に触れたとしてもだ。

 内心の動揺を隠し、必死に冷静な声を出す。


「しかし、あてもなく探すなど」


 そうオーランドが言いかけた時だった、1人の騎士が駆けてくる。それに気づき、カインが前に出る。


「どうした?」

「失礼します!ツヴァイ様より陛下へ火急の伝達を承っています!」


 そう言って、騎士は折りたたんだ紙を差し出す。それをカインは受け取ると素早く中身を確認する。そしてすぐにギルベルトのもとへ駆け寄る。


「陛下!これを!」


 カインが差し出した紙をギルベルトは受け取る。そしてそれを見て、その顔が驚きに満ちる。

 何度か確認するように見ると、何も言わず、それをオーランドに差し出す。オーランドはそれを受け取り、素早く見る。

 ツヴァイからの手紙の内容はレティシアを保護したこと、この王宮から連れ出すこと、陛下と会いたい旨が書かれていた。

 どうやらことは何か起きる前におさまっていたようだ。

 オーランドはほっと安堵し、ギルベルトへ視線をやる。

 そしてまた、固まった。

 ギルベルトは顔を片手で覆い、表情を隠していた。しかし指のわずかな隙間からその表情が見える。

その顔は酷く安堵していた。それこそ、誰の目にわかるほどに。

 本来王がするような顔ではない。いや、今までのギルベルトであれば、けしてそんな顔を人前ではしなかった。それが。

 オーランドは手紙を見返す。

 もしもツヴァイが保護できず、レティシアにもしものことがあったらギルベルトはどうしただろうか。

 考えればすぐにわかる。最悪な展開が予想でき、オーランドは思わず黙り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。