42.予想外の出会い
「やっと着いた」
私は息を切らしながら、すぐ近くに建つ王宮を見る。こんなに近くまで来たのは舞踏会の日以来だろう。
私はそっと物陰に隠れながら、王宮の様子を伺う。やはり予想通りと言うべきか王宮内の出入り口には兵士達が立っている。
正面の出入り口は特に兵が多く、ここから入るのは難しいだろう。
私はそっと物陰に隠れながら、王宮の裏側に回る。
どこか別のところから入れる場所があればいいんだけど。
当然ながらそんな場所はない。どの出入り口にも兵士がいて、そう簡単には入れそうになかった。
こうなったらもう強硬手段しかない。
できるだけ兵士が少ない出入り口を探す。
散々歩き回り、私は王宮の横側にある小さな出入り口を見つけた。兵は2人しかいない。しかも2人の兵はなにやら話し込んでいるらしく、あまり、外に意識がいっていないようだ。
今だ。そう思い、私は物陰からそっと出ると出入り口にそう遠くない窓に向かってその辺で拾った石を投げた。
見よ!この剛速球を!
そう心の中で呟く。つい、こないだやったラフットでは、私のこの球は負けなしだった。
私は石を投げたと同時に物陰に隠れる。石は狙い通り、窓を突き破り、音を立ててガラス割る。
突然割れた窓に出入り口の兵士達が驚く。そして何があったか確認するように動く。
私は物陰から飛び出すとそのすきに出入り口へと走った。
入れる。そう思った瞬間だった。後ろから声が上がる。
「おい!お前!?何をしているんだ!?」
驚く兵士の声。
やばい。見つかった。
もうここまできたら後には引けない。私はそのまま全速力で出入り口を通って王宮内に入る。兵士達が慌てて追いかけてくる。
声が次々に上がる。
「待て!止まれ!!」
待てと言われて待つ奴はいない!
もうここまできたら逃げるしかない。
私は王宮内をとにかく走る。とりあえず、どうにかして追っ手をまかないと。
そう思って、曲がり角を曲がったその時だった。
誰かとぶつかった。曲がり角の向こう側にはどうやら人がいたらしい。私はぶつかった反動で後ろに尻もちをつく。相手もぶつかった反動で後ずさるが、倒れることはなかった。
だめだ!捕まる!
そう思って、ぎゅうっと目を閉じる。しかしいくら待っても相手は私を捕まえようとしない。
どうしたのかと思って目を開ける。再度ぶつかった相手を見て、私は思わず驚きの声を上げた。
目の前に立つ相手は私の知っている人だった。
「姫様?え?なんで!?」
そう言って、ツヴァイが困惑したような顔で私を見る。
それは私も同じだ。庭師であるツヴァイが王宮内にいるはずがない。よくよく見れば、その恰好はいつもの庭師の格好ではなかった。
いつも彼が着ている服よりもずっと上質な紺色の制服。それはいつも陛下の後ろに控えていた護衛の騎士達が着ていたものと同じだ。そしてその腰には当然のように剣がささっている。
飾りなどではない。本物だ。
「嘘でしょう?」
ツヴァイがなんで王室付きの騎士の格好をしているの?
互いに驚き声も上げられずに見合う。
どうしたものかと思っていると向こう側から声が聞こえる。
「そっちに走っていたぞ!探せ!」
あ、まずい。そう言えば、私は追いかけられていたんだった。
私は慌てて立ち上がる。それと同時に今まで動かなかったツヴァイがさっと動いた。
あっという間にツヴァイは私を抱え上げる。
抵抗する間なんて全くなかった。
「ツヴァイ!?」
もしかして捕まった!?そんなツヴァイが!?私を裏切った!?
いや、違う。もしも彼が庭師というのが嘘で本来は騎士という身分であったなら、こうなるのは当然のことだ。彼は間違っていない。
わかっている。頭ではそうわかっているけど。それでも、信じていただけに、裏切られた感が強い。
どうして?
泣きそうな顔でツヴァイを見る。ツヴァイは何も言わず、私を抱え上げたまま、そのまま素早く近くの部屋に入る。そしてすぐに扉の鍵をかけた。
すぐ扉の向こう側を私が追ってきた兵士達が駆けていく。
私は思わずツヴァイの方を見る。
もしかして、もしかして、助けてくれた?私を抱え上げたのは捕まえる為じゃなくて、隠す為だったの?
ツヴァイは扉の向こう側の気配をさぐる。やがて兵士達が遠くへ走りさったのを確認すると私を床におろした。
「ツヴァイ、えっと」
お礼を言うべきだろうか。それともどうしてそんな恰好をしているか聞くべきだろうか。
そう迷っていると私よりも早くツヴァイが口を開く。
「姫様、説明して下さい。何故、貴方がここにいるのですか?」
いつもの軽口をたたく口調ではない。問い詰めるようなきつい声。
私は思わずごくりと唾をのむ。
ツヴァイは見たことないほど冷たい表情で私を真っすぐと見ていた。
怒っている。完全に怒っている。
そんな顔で見られて、隠すことなんてできない。私はおずおずと重い口を開いた。
「私、その、陛下にどうしても会いたくて。その、離宮を抜け出して」
「離宮を抜け出した!?いったいどうやって!?」
ツヴァイが驚きの声を上げる。
私はそれにどうやってここまできたのかを簡潔にツヴァイに説明した。リクボの実を火にかけると爆発すること、それ使って皆の注意をそらしたこと、その隙に2階の窓からロープで降りたこと、王宮内に入る為石で窓を割り誘導をかけ侵入したこと、それが見つかり追いかけられていること。
私の話を聞くうちにツヴァイの顔がどんどん引きつっていく。いつもの爽やかな笑みはみじんもない。
私が全て話し終えるとツヴァイは額に手をやり、「嘘だろう」と呟いた。
「いや、姫様が予想外な人だとは思っていましたが、まさかそこまでするなんて」
「本当にごめんなさい」
もう謝るしかない。それだけとんでもないことをした自覚はあった。
こうなることはわかっていた。最悪捕まることも。
それでも、それでも私は陛下に会いたかった。
ツヴァイは大きなため息をつく。額から手をはなすと私を困ったような顔で見る。
「全く貴方は困った人だ」
「本当にごめんなさい」
「反省して下さいと言いたいところですが、今は正直それどころじゃないです」
「それってどういうこと?」
「姫様が離宮を抜け出したことも問題ですが、それよりも貴方がこの王宮内にいることの方が問題なんですよ」
「え?」
どういうこと?意味がわからない。私がここにいることが問題?何で?
私が尋ねる前にツヴァイは扉の鍵を開け、外に誰もいないことを確認する。
「ツヴァイ?」
「説明は後です。行きましょう。今貴方がここにいると危険です」
「え?」
何で?危険って、どういうこと?
困惑する私をよそにツヴァイは私の手を引く。それでもなかなか動けずにいる私にツヴァイは穏やかな表情で言う。
「姫様、言いたいことがあるのはわかりますが、どうか今は私の言う通りにして下さい。陛下に会う件は私が何とかしますから」
懇願ともとれるその言葉に私は押し黙る。
どうやらことは私が思っていた以上のことになっているらしい。
私は頷く。それをツヴァイは確認するといつもの爽やかな笑みを浮かべた。




