↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/70

30.暖かな贈り物その3


「姫様!」


 せっかく外に出たので数日ぶりに厨房を覗いて見るとすぐに私を呼ぶ声が聞こえた。

 誰かと思えば料理長である。何か用でもあるのだろうか。

 料理長はやりかけの料理もそのままに大慌てで、私の方に駆けてくる。


「どうしたの?何か困ったことでもあった?」

「いえ、こちらは特に何かあった訳ではないですが、姫様は大丈夫ですか?」


 そう言って料理長は心配げな様子で私を見る。どうやら私を心配していたのは料理長もだったらしい。 いや、料理長だけじゃない。気づけば、厨房にいる料理人達がみんなこちらを心配そうに見ている。

 まさか、ここまでみんなに心配されているなんて、予想していなかった。

 私は慌てて、大丈夫と手を振って答える。


「元気だから!なんともないから!」

「そうですか?それなら、いいのですが」


 料理長はほっとした顔をする。他の料理人達も顔を見合わせ、笑っている。


「料理の方は大丈夫?」

「はい。それでその、姫様にお願いがあるのですが」

「お願い?何?」


 また新しいメニューでも教えてもらいたいのだろうか。

 そう思っていると料理長は少しだけ緊張した趣で言う。


「その、前に姫様の話を聞いて試しに作ってみたものがあるのですが、もし宜しければ味見をして頂けませんか?」

「え、作ったの?」


 その言葉に私は驚く。これは珍しい。新しい料理を作る時はたいていこういう物が作りたいと私から料理長に言って、だいたいの構想をみんなでねってから、作っていくことが多い。

 料理長がだいたいの材料や調味料を用意して、私が調理を中心になってやりながら、ついでに料理人達の指導もしていく。

 今まではずっとそうしてきた。

 料理長からこれが作りたいとか言うことはなかったし、料理長1人で私が話したものを作ることも今まではなかった。

 それが急にどうしたんだろう。


「姫様、あの、どうでしょうか?」


 私がなかなか食べると言わなかった為か、料理長が不安そうな顔をしてそう尋ねてくる。私は慌てて食べたいと答えると料理長がぱっと顔を輝かせる。


「本当ですか!ありがとうございます!」


 料理長は笑顔でそう言うと駆け足でどこかに行く。どうやら作ったものを持って来てくれるらしい。しばらく待っていると料理長が戻ってくる。その手には銀色の器が握られていた。


「姫様、せひこれを食べてみて下さい」


 そう言って、料理長は銀色の器に入った物を差し出す。それを見て私は驚き、思わず息を飲んだ。

 料理長が差し出したのは器に入った白い色の食べ物だった。

 まさかこれは。

 器と一緒に渡されたスプーンを持ち、それを一口すくい、口へと運ぶ。口に運ぶと冷たくて甘い味が口いっぱいに広がった。

 前世で食べていたものに比べると味は薄い。しかしそれは間違いなく前世でも食べたことのある物だった。


「これって、アイス!?」


 私は思わずそう言って、手の中の物を見る。少し固まりきれていないところもあるが、味はアイスに間違いない。

 私の言葉に料理長は笑顔で頷く。


「はい!前に姫様から美味しいと聞いていたので作ってみました!ただ、話を聞いただけなので、姫様の思っていたものとは違うかもしれませんが」

「そんなことないわ!想像どおりよ!」


 この世界には冷蔵庫がない。一応、氷室はあるけど、冷蔵庫に比べればその差は歴然である。だからこそ、今まで冷やして固めるのは難しいとずっと思っていたけど、これだけできれば十分だ。

 久しぶりに食べるアイスはやっぱり美味しい。

 もう一口、口に運ぶ。口の中でアイスがさあっと溶ける。


「味はどうでしょうか?」

「おいしい!」

「そうですか!それは良かったです!」


 喜んで私はもう一口食べる。それを見て料理長が穏やかな表情で言う。


「良かった。少しでも姫様に元気になってもらいたいくて、みんなで作ったんですよ」

「え?」


 まさか、私。ここでもそこまで心配されていたの?

 慌ててみんなを見るとみんな黙って頷いている。思わず言葉を失う。

 前にアイスの話をしたなんて言っていたけど、アイスがどういうものか話しただけで、作り方なんて一切教えていない。

 それなのにここまで仕上げるなんて。きっとすごい大変だったろうに。


「みんなありがとう」


 私の一言に料理長をはじめ、みんなが笑う。その笑顔が酷くまぶしくて、思わず涙がでそうになる。


「美味しくて、すぐ終わっちゃったよ」


 私はそれをごまかすようにそう言って、最後の一口を食べる。

 すると料理長が「大丈夫です」と答える。


「姫様の為にたくさん作ってありますから!」

「え!?」


 まだあるの?

 一瞬にして涙がおさまる。

 呆然とする私をよそにみんながいくつものアイスを持って、やってくる。

 あっという間に大量のアイスが目の前に並んだ。


「姫様どうぞ!いくらでも食べて下さい!」

「あ、ありがとう」


 これを全部?

 ちらりと私は助けを求めるようにラルフの方を見る。ラルフは笑顔で何も言わず、そっと視線をそらす。

 一人でどうぞという意味らしい。料理長達に視線を戻せば、みんなきらきらとした顔をして、私が食べるのを今か今かと待っている。

 全部食べられるかな。

 並んだ山のようなアイスを見ながら、私は思わず顔を引きつらせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。