24.やられてばかりではいられない
私は声高らかに笑う。もう我慢できなかった。
彼女に負けない、堂々とした不敵な笑みを浮かべる。それに彼女は僅かに驚いた顔をする。
「よくもそんな嘘を堂々と言えますね?」
「嘘!?嘘じゃないわ!陛下は貴方を疎ましく思っているのよ!可哀そうな陛下!貴方がいつまでも陛下にまとわりつくから陛下は仕方なく相手しているにすぎないのに貴方はいつまでたっても気付かないなんて!」
彼女の顔が怒りで赤くなる。それを見ながら私は笑う。
美しい顔が台無しだ。今の顔なら私でも勝てる気がする。
「そうなんですか?でも、本当に陛下が私にそう言うようにって、言ったんですか?」
「そうだと言っているでしょう!?」
「そうなんですか。でも可笑しいですね。どうして陛下はご自分で私に言わないんでしょうか?」
「え?」
彼女が一瞬何をと言いたげな顔をする。そんな彼女に私は満面の笑みを浮かべて答える。
「だって、そうでしょう?陛下がそう仰ったなら、陛下自身が私に言えばいいだけのことじゃないですか。陛下はこの国で一番偉い方なんですから、陛下そう仰れば、皆それに従います。もちろん私だって」
そもそもだ。気に入らなければ、陛下がそう言えばいいし、むしろ会いにこなければいいのだ。
実際最初のうち、陛下は私のところなんて全く来ていなかった。
それが最近になってくる頻度が上がった。それを思えば陛下が私を嫌っているとは考えられない。
「それは、貴方が話を聞かないから!」
「それで貴方に?どうして貴方に言うように陛下が頼むんでしょうか?だって、貴方がいくら言ったところで私をどうこうできるはずないのに。そうでしょう?そんな無意味なことを陛下が行うとは思いませんが?」
フランチェスカ様が実際どれぐらい陛下に愛されているかは知らないが、いくら公爵令嬢といえど立場は側妃であり、私より地位は下。
下の立場の人にいくらそう言われたところでそんなの何の影響もない。
「っ!なによ!ふざけないで!貴方、私を誰だと思っているの!?」
見る見る彼女の顔が鬼様な表情になる。しかし陛下やルイザに比べそんなもの大したことない。
そもそもたかが側妃1人怒らせたことで私はどうも思わない。
「フランチェスカ様でしょう?先ほど聞きましたが?」
「ふざけないで!!私は公爵令嬢よ!そして、ゆくゆくは側妃となり、陛下の寵愛を受ける存在なのよ!?そんな私によくもそんな口を!」
「あら、そうなんですか?でも、本当に陛下の寵愛を受けいてるんです?たぶん陛下、貴方みたいな陰で誰かを貶めるような人、嫌いだと思いますけど」
「っ!なんなんですの!?」
そう叫ぶように言うとフランチェスカ様はその手に持っていた扇子を私に投げつける。
うわあ、短気だな。
私よりもたぶん短気。だってここでそんなことすればどうなるか。いくらなんでも私だってわかる。
本来なら絶対許されない行為だ。
その証拠に後ろに控えるとりまきの令嬢達の顔が若干青ざめてきている。
そりゃあ、そうでしょう。
お飾りでも王妃候補の女性に直接手を挙げるなんて。
幸い扇子は私の胸に当たっただけで、怪我はしていないけど。
とはいえ、私が一言いえば間違いなく大ごとになるレベルの案件だ。そのことに頭にすっかり血が上ったフランチェスカ様は気づかないようだ。
「貴方みたいなののどこがいいって言うのです!?顔も見た目も貧相!おまけに礼儀作法もなっていない!そんな貴方がどうして陛下の寵愛を受けて!」
「え?」
陛下の寵愛を受けて?え?何言って?
私が陛下の寵愛を?
いや、ないない。そりゃあ、前よりは陛下との仲は良くなっているとは思うよ。でも、そんな、感情は陛下にはない。
あるはずがない。だって、そんなこと、陛下は一言も言っていないし。
というか、寵愛を受けていたのは貴方じゃなかったの!?
予想外の言葉に私は動揺を隠せない。
あれ、顔がまた赤い気がする。
そんな私とうって変わって、フランチェスカ様は耳障りな金切り声を上げる。
「貴方さえいなければ!私が!私が王妃となっていたはずなのに!」
そう言って彼女は私を睨む。
陛下が睨むのとは違う。そこにははっきりとした憎悪、悪意を感じた。
彼女に何かできるとは思わないけど、こういう目をした人間は何をするかわからない。ことがおきてからでは遅い。
そう思って身構えていると、不意に私の肩に誰かの手が置かれた。
「え?」
見慣れた大きな手。フランチェスカ様が目を見開き、私の肩に手を置くその人を見る。
そしてすぐに3人のご令嬢達の身体が小刻みに震え、小さな悲鳴が上がった。
うん。そんな声をあげたくなる気持ちはわかるよ。
たぶん、いや、間違いなくその人は今すっごく怖い顔をしているに違いない。
私はゆっくりと振り返り、肩に手を置くその人を見た。
当然そこに立っていたのは陛下だ。
陛下は鬼のような形相でそこに立ち、射殺すのではないかと思うほどのきつい目で令嬢達を睨む。
特に目の前に立つフランチェスカ様を。
「へ、陛下……」
震える声で彼女はそう言う。そこには先ほどまであった自信満々の表情はない。顔が見る見る蒼白になる。
よほど怖いのか、可愛そうなほど彼女達は震えている。あまりの怯えっぷりに、さっきまでのことも忘れて、私は思わず止めに入る。
「陛下、えっとその怖い顔をとりあえず止めたらどうでしょうか?」
みんな怖がっていますよ。ね、笑って。ほら、最近少し笑うようになっていたじゃないですか。
私がそう言うと陛下の鋭い視線が今度は私に向けられる。
だから、怖いって、そんなに睨まないで!
「お前は……それでいいのか?」
「え、何がです?」
陛下の問いの意味が分からず、私は首を傾げる。その様子に陛下は何故かため息をつく。
ええ?またため息!?今日は陛下ため息ばっかりじゃない!?私そんなに何かしましたか!?
そう思っていると不意に陛下の手が肩から離れ、今度は私の腰に回される。そしてそのまま、引き寄せられたかと思うとあっという間に抱え上げられた。
「へ?」
身体がそのまま浮く。いつものドレスなら多少暴れることができるが、今日は違う。
この動きにくいドレスではまともに抵抗もできない。
あっという間に前に塔に登った時と同じように何故か横抱きにされる。
本当になんでよ!?
「ちょ、ちょ、陛下!?」
「騒ぐな。うるさいぞ」
これが騒がずにいられますか!?何で!?何で、またお姫様抱っこ!?え!?意味が全然わかりませんが!?
陛下は私を横抱きにしたまま、彼女たちを一切相手にせず、さっさと背を向け、立ち去る。
ちらりと陛下の肩越しからフランチェスカ様を見る。
彼女は憎悪に顔を歪め、私をただ真っすぐと睨んでいた。




