↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/70

12.私と陛下の楽しいお茶会


「陛下、ご多忙のなか来て頂きありがとうございました」


 再度そう言って感謝を述べると陛下は気だるそうに私を見てから、「かまわん」と一言吐き捨てる。

 そして沈黙。

 最初のやりとりでなんとなくわかっていたけど、陛下ってあんまり喋る方じゃないよね。どうするの、これ。喋る内容なんて全く思いつかないんですけど!?

 もう笑顔を崩さないようにするだけで精一杯だ。

 そっと使用人達がお茶を入れ、はける。

 何か話さなければいけない。そう分かっているのに、言葉はなかなかでてこなくて。


「えっと、あの……」


 だめだ。これじゃあ、せっかく楽しみにしていたお茶会が大失敗で終わってしまう。

 どうしよう、どうしよう。

 ルイザの不安げな顔が視界のはしにうつる。

 周りに控えていた使用人達も騎士達も皆こちらを見ている。そして陛下も。

 そんなに見られたって、どうすればいいかわからないから!

 そう思っていると、不意に陛下が口を開いた。


「できたのだろう」

「え?」

「できたから余を呼んだのだろう?」

 

 陛下にそう言われ、私ははっとする。

 慌ててそうですと頷くと使用人達にパイを出すようにお願いした。すぐさま用意されていたパイが出てくる。


「えっと、レトルのパイです」


 私はそう言ってから、陛下の顔を伺う。

 切りわけられたパイを見ても陛下は表情ひとつ変えない。

 まさか、気に入らないとかじゃないよね?パイが嫌いだったとか、そうだったらどうしよう。

 内心そう焦っていると陛下は小さく頷いた。すると陛下のそばに控えていた護衛の騎士が一人前へとすすみでる。


「失礼します」

 

 そう言って、パイを一口サイズに切るとそれを口に運ぶ。

 あ、あれ、これって、もしかして毒味?すごい。映画でしか見たことない。

 というか、待って。もしかして陛下が食べる前にはこうするのが礼儀だったりする?

 あっと思って、私はレトルの実を陛下に差し出した時の事を思い出した。

 しまった!あの時全然そんなこと考えてなかった!毒味してなかったから、あんなに食べるのをためらったのか。

 しまった!私のばか!そりゃあそうだよね。だって一国の王だもん。万が一毒なんて仕込まれたら一大事だもんね!

 もちろん私の作ったパイには毒など入ってはいない。騎士は小さく頷くとそのまま後ろに下がる。

 それをしっかり見届けてから、陛下はゆっくりとした動作でパイを一口大に切り、口に運んだ。

 ゆっくり、ゆっくりと噛み、そして飲み込む。

 私はそれを黙って見る。

 陛下は何も言わない。黙ってパイを見ている。

 早く、早く。早く何か言ってよ!!


「どうですか?」


 たまらず、私は陛下にそう尋ねた。陛下はこちらをちらりと見てから、またパイへと視線をおとす。

 そして。


「うまいな」


 たった一言そう言った。


「そ、そうですか」


 おいしいなら、おいしいんだったら、さっさとそう言いなさいよ!?

 あーもう、無駄に緊張しちゃったじゃない!いや、あれだけ必死になって作ったパイが美味しくないなんて思わなかったけどさ!

 あれから実はパイを何度も作り直した。砂糖の量を控え、甘さを抑え、甘い物が苦手な男性でも食べやすい様に味を何度も変えた。

 それだけでなくパイの中に入っていたレトルのジャムも変えた。ただ小さく切り、煮込むだけじゃなく、レトルの実をすこし大きめに切ったものも入れ、食感に変化を与えた。

 パイ生地もそれまでの甘いものから塩を少しいれ、少ししょっぱい生地に変えた。

 時間をかけたかいがあって、パイはほぼ理想どおりのできになっている。

 とはいえ、陛下はこの国の料理を普通に食べていた人だ。万が一、味覚音痴だったら、私のこのパイではどう頑張っても勝ち目はないかもしれない。そう思っていたけど。

 良かった!陛下の味覚は大丈夫そうだわ!

 夫婦間で味覚が違うとトラブルの原因になると前世の頃、聞いたことがある。少なくともそうならずにすんでよかった。

 ほっと内心安堵していると陛下がおもむろに口を開く。


「お前が作ったのか?」

「はい」


 そうです!私が作りました!そこは胸をはって答えられる。

 そう思って弾んで答えたが、どうやらその答えが陛下は気に入らなかったようだ。何故か眉間のしわが深くなる。

 あれ?何かまずいことでも言った?

 雲いきが怪しくなり、私は内心焦る。


「お前の国では王女が料理をするのが当たり前なのか?」


 あ。私は思わずルイザを見る。ルイザは激しく首をふる。

 当然ながら私の国でも王女が料理などすることはない。

 そもそも料理の記憶も前世の記憶からきたものだ。それを説明などできるはずがない。

 ど、どうしよう。どう返事をするべきだろう。


「しゅ、趣味みたいなもので、ちょっと興味があったというか」


 苦し紛れの言い訳に陛下は何も言わず、訝しむように私を見ている。

 そりゃあ、そうだよね。冷静に考えればおかしいよね。

 なんで王女が料理ができるわけ!?というか、なんで料理人のまねごとしてるの!?

 この国の料理の味が合わなすぎて、いてもたってもいられなくなって、ついつい自分で料理とかしちゃったけど、世間的に考えておかしいよね!?もう、今更だけど!

 というか、もともと陛下が全然こなかったからこんなことになったのに!陛下とちっとも会えないから、料理作りしかすることがなかったのよ!

 まあ、本人には言えないけどさ!

 どうしよう。この状況をどう打破すべきか。

 内心、頭を抱えていると陛下は私に構わず残ったパイを口に運ぶ。全て食べ終えてから、食器をテーブルに置く。

 そして陛下は私をじっと見ながら言う。


「作ってみろ」

「え?」


 作ってみろ。って、なにを?

 混乱する私に陛下は黙って立ち上がる。まさか、今から作れって言われてる?

 まさか、そんな。


「あの、陛下。どこへ?」

「厨房だ」


 当然のように告げられたその一言に。私は逃げ場がないことを悟った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。