11.気づかなかった大きな問題
こうして数日が過ぎ、私はついにパイを完成させ、陛下に来て頂きたい旨を伝えた。するとすぐに王宮の使者がやってきて、陛下と会う日があっさりと決まった。最初のやりとりが嘘のようにスムーズだった。
どうやらあの出会いは、私が思っていたよりも失敗ではないのかもしれない。
あれがどういったものだったとしても、少なからず陛下は私に興味がでてきたらしい。今まで全く相手にされなかったことを考えればずいぶんましになったものだ。
そしてもうすぐこの部屋に陛下がやってくる。そして楽しくお茶をするのだ。
「ついにこの日が来たわね」
今日という日の為に私だって準備は完璧である。
いつもは苦手とするフリルのついたドレスを今日はちゃんと着た。髪も朝からルイザがセットし、髪飾りもそれなりのものをつけている。
少なくともこの前の畑仕事をしていた時よりはまともな姫君に見えるだろう。こういう一面もあるということをしっかりこの機会に見せておかねば。
「姫様、もうすぐ時間になりますね」
「そうね」
そう、もう約束の時間になる。もうすぐこの部屋に陛下がやってくるのだ。陛下が来たらまず挨拶をして、それからお茶をすすめて、パイを食べて、それで、それで。それで?
あれ?
私は不意にとんでもないある問題に気付いた。
ばっとルイザを見る。ルイザは「どうしましたか」と驚いたような顔をする。
そんなもの気にせず、私は立ち上がるとルイザに詰め寄る。
「ど、どうしよう!?」
「姫様?いったいどうされて?」
「わ、私!」
そう、会う約束はとりつけた。しかし問題はそこじゃなかった。
そこからだった!
「陛下が来ても何を話せばいいのよ!?」
「は?」
私の問いかけにルイザはぽかんと口を開ける。
わかるよ。何を言っているのって思う気持ち!でも、そう問題はそこだ!
はっきり言って、そのへんに関しては前世の記憶は全くあてにならない!
なぜなら前世の私は仕事以外の内容を異性と話すことなんて一切なかったのだ!
「ねえ、ルイザ!どうすればいいの!?」
「落ち着いて下さい。普通にお話をすればいいですから!」
「普通の話って何よ!?」
もっと具体的に言ってよ!?その普通がわからなくて困っているんでしょう!?
私がそう言うとルイザの顔がひきつる。
「世間話とかでよいのでは?」
「世間話!?え、何!?天気の話とか!?」
今日は良い天気ですね。そうにこやかに言えばいいの!?それって何かちがくない?
大丈夫!?ねえ、本当に大丈夫!?
焦る私にルイザは「落ち着いて下さい」と大きめな声で言う。
「レティシア様!?いったい、どうされたのですか!?男性の方と話されることなんて祖国にいた時はいくらでもあったじゃないですか!?」
ルイザのその言葉に私はええっと驚いて声をだす。
いくらでもしていた?私が?異性と?いくらでも話していた!?嘘でしょう!?
慌ててレティシアの記憶を探るも、相変わらずその記憶は不鮮明で、あてにならない。
駄目だ!全然何を話していたか思い出せない!
あからさまに慌て出す私にルイザは微笑む。
「大丈夫です。姫様はいざとなれば出来る方ですから」
嬉しいけど、嬉しいけど、今はそれでどうにかなる気分じゃない!もっと明確なアドバイスをちょうだい!
そう思って、ルイザに再度詰め寄ろうとしたその時、部屋の扉がノックされた。
「失礼します。陛下が到着されました」
そう言って、使用人が部屋を問答無用に開ける。
止める間もなく、すぐに陛下が中へと入ってきた。
この前と同じ、整った顔をしながらも不機嫌さを全く隠さない陛下は、部屋に無言で入ると私を無遠慮に眺める。
思わず固まる。ど、どうしよう。
前世ではどんな大事なプレゼンでも会議でもこんなに緊張したことなんてなかったのに。
それが。こんな。
固まる私に「姫様」とルイザが小さな声で呼ぶ。
そうだ。挨拶をしなければ。私はそっとお辞儀をし、陛下に来てくれたことに対し感謝をのべる。
散々練習したそれはさすがに間違いはしなかったが、緊張のせいかどこかぎこちない。陛下は何も言わず、無言でテーブルにつく。
さあ、ここからが本番だ。
私は顔をひきしめ、自分もテーブルについた。




