4/46
山縣 顕人
少し緊張している。
今日からあの穴の中に入るんだ。
仮設住宅を出た彼は復興が一向に進まない街の中を色んな感情が入り混じった顔で歩いていた。
彼、山縣 顕人に親はすでにおらず今回の一連の騒動で親しい人物を1人も喪っていない幸運な人間だ。
本来調査隊に応募する人間は、今回の事件で身内を喪ったり、家財をなくしたり、所謂ワケありな人間が多い。
そんな中彼が応募した理由は漠然としていた。
自分のこれまでの人生、親を早くに亡くし勉強もスポーツもイマイチやる気力が起きず、生きているのに死んでいるような生活を送っていた。
そしてあの地震が起き、さしもの彼も死の恐怖を感じたが、それは同時に彼に生きているという実感を与えた。
そして危険極まりない未知の穴への調査隊を募るという報が届き彼は飛びついた。
死ぬかも知れない、しかし死んだように生きるよりはマシだと彼は思った。
集合場所の穴付近詰所にたどり着き、彼は一呼吸入れて門をくぐった。




