身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
始めこの調査隊に志願することを決めた際に楓は決めていた。
長かった髪を切り、胸にはサラシを巻き、一人称を変え、声色を低く。
男としてこの場に立つことを。
親友の死によってここへ来た楓は当然他の誰かの力によって自らの思いを遂げることを良しとしなかったからだ。
その戦いの場に〝女〟であることは邪魔になる。
戦力的に劣る部分があれば女であることを理由にされかねず、前線に出る際も女を理由に遠慮されるかもしれない。
そういう経緯もありダンジョンに来た最初、自らに魔法が使えないことがわかった際楓の心は深く沈んだ。
そして同時に楓の覚悟をより一層強固にした。
(私は、いや〝ボク〟は前に立ち強くなる。
自分が弱いことに理由なんて作らない。)
そんな楓の覚悟をあざ笑うかの如くスレイヤーは楓の剣と鎧と、〝男〟という鎧を砕き割った。
かに見えた。
猛然と楓にトドメを刺すべく迫るスレイヤーに対して楓は折れた剣の切っ先を手に取り迎え撃った。
(例え〝鎧〟をなくしても、例え〝剣〟を折られても、この心を折らせはしない。)
この二体の鬼の間に豹悟が割って入った。
「小野くん!?」
その手には何も持っておらず、素手でスレイヤーにしがみついた。
すかさずスレイヤーはその爪で豹悟の背中を突き刺す。
「ゔっ…」
更に右腕で脇腹を激しく殴打したが豹悟は離れなかった。
そして、脳裏に浮かぶ両親を思い、少し笑った後楓に言った。
「永崎、すまん。
他にこいつをどうにかする方法が思いつかなかった。
後は頼んだぞ。」
豹悟はしがみついたその手から直接スレイヤーの体に魔力を送り込み始めたのだ。
「!?」
スレイヤーの体が豹悟の触れてる箇所から徐々に凍りついていく。
「小野くん!」
悲痛な顔で楓が叫ぶが、目の前の状況をいかにすればいいのか手立てが見つからなかった。
スレイヤーは突き刺した爪を引き抜き更にもう一度突き刺そうと腕を振り上げた。
楓はさせじと切っ先を持ちスレイヤーのその振り上げた腕に突き刺し追撃を止めに入る。
「オアッ!?」
しかし豹悟の意識は徐々に遠くなり、氷が全身を包むが先か否かの状況だった。
(まずい…意識が…上手く魔力を放出できない…。)
楓は必死にスレイヤーの腕を食い止めていたが、その膂力に動くこともままならなかった。
(このままじゃ小野君が…!)
その時、楓はスレイヤーの手に触れていた右手に魔力が漲るのを感じた。
(この感覚…今までにないモノだ!)
(なんでもいい!どんな力でもいい!小野君を助けるだけの力を!)
楓は右手に充実する魔力を、渾身の気合と共に放ったのだった。




