蓑の傍へ笠が寄る
「なぁ岩手」
豹悟が共に番をする昴に話しかけた。
「なんだ?」
「俺はそうなんだが、岩手も身内を地震で亡くしたりしたのか?」
「…ああ。
全員死んだよ、親も兄弟も。」
「そうか、だから元凶の一端かもしれないモンスターに感情的になってたのか。」
豹悟は初めての戦闘の時や度々見せる昴の強い敵意や殺意を思い出していた。
「俺は今回の原因になったヤツがいるならそいつを殺すことが目的だから、アイツらを見るとつい頭に血が上ってしまうんだ。」
昴は少し自分を省みながら豹悟に続けた。
「小野は冷静だな。
ここにきたくらいだし別に家族と仲が悪かったとかそういう訳じゃないんだろうし。」
「一応チームを預かるリーダーやってるしな。
まぁ、でもこの役割には少し感謝してる。
背負う分他の事をそんなに考える余裕もないしね。」
それに、と豹悟は続ける
「俺もきっと岩手と大差ないよ。
岩手は家族を失って生まれた感情を復讐に向けて燃やしてる。
俺はこのダンジョンの謎が解けたらもしかしたら家族を生き返らせることができるんじゃないかと思って攻略する事に燃えている。
何かすがるものが欲しいんだと思うんだ。」
「すがるもの…確かにそうだな。
今は復讐って目的に俺は生かして貰ってるんだろうな。
しかし、人を生き返らせるなんて事が出来るのかな。」
「全然分からん。」
豹悟が笑いながら即答した。
「ただ、これほど荒唐無稽な事が起こってるんだからもはや何が起きても不思議ではないって俺は思う。」
「そうだな…。そうだったらいいな。」
「けど、岩手が復讐が1番モチベーションを保てるなら捨てる必要はないと思うぞ。」
「ああ、だが人を生き返らせるかもしれないってことは少し覚えとくよ。
願いを叶える前に俺が復讐を遂げたらマズイからな。」
と、昴は少し笑った。
昴自身自分が笑ったのを久し振りに感じた。
豹悟も昴の心中を多少察し
「ああ、頼むよ」
と少し笑ったのだった。