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四日目【10】

城に戻ろうとしたが、白檀様とフレドリックの対談はまだ終わっていないと菊花から連絡を貰い、どうしたものかと首を傾げる。

城に戻ったは良いものの、予定外に時間が空いてしまった。

どうしたものかと迷っていると、菊花から伝心が入る。



『聞こえますか、伽羅』

『ええ』

『今時間が空いているのでしょう?明日の余興の下見をしませんか?』

『これから?でも白檀様と勇者の会談が終わるかもしれないわ』

『力を使って移動すれば良いでしょう。それに白檀様の勅命です』

『先に言いなさい』



一方的に伝心を切ると菊花の元へ移動する。

瞬く間に現れた私に驚きもせず迎えた菊花は、眼鏡を指の腹で押し上げると不満そうに鼻を鳴らす。



「本当に貴女は白檀様大事ですね」

「当たり前のことよ。それで目的地は?」

「・・・はぁ、嫌味も通じませんか」

「嫌味にすらなってないわ。さっさと目的地を言いなさい」

「判りました」



呆れを含んだ声で頷いた菊花は、宙から紙を取り出すとそのまま広げる。

見覚えのある地形が描かれたそれは、どうやらこの世界の地図だ。

この世界の人間が中途半端に作成したものではなく、菊花自身が描いたそれは精巧で緻密なもので、局部を拡大し立体的に見ることも出来る。

彼の力を使っているからこその代物は今の私にはとても真似できない技巧が凝らされていた。

菊花が指を振るうと五つの地形が浮かび上がり、映像として宙に射影される。


一つ目はごつごつとした岩肌の山が並ぶ地形。

二つ目は澄んだ水を湛える湖。

三つ目は色取り取りの花が咲き誇る草原。

四つ目は溶岩が煮えたぎる火山帯。

五つ目は木が生い茂る森。


地図を確認すれば、彼が選んだのは大国と呼ばれる国に所有される土地だった。

全く違う環境であるが菊花の選んだ場所には一つ共通点がある。

それを余興とするのも通例で、問いかける必要もなかった。



「ここが貴方が選んだ余興場所?」

「ええ。下見に付き合ってもらう暁には、貴女に最初に何処にするか選ぶ権利を与えて差し上げますよ」

「何処でもいいわ」

「そう言うと思いました。ですが一応これも白檀様からの勅命です。つまり」

「選択しろ、と言うことね」



遠回しな命令に頷くと、菊花は目を細めた。



「この地域に何か思い入れが?」

「あるわけないでしょう。私はこの世界で仕事以外で外出することはないわ。白檀様のために動くのは苦にならないけれど、好ましいと思える場所はないもの。ああ、でも。敢えて言うなら白檀様がご一緒くだされば何処でも好ましいけれど」

「惚気ろとは言ってませんよ。ですが、まぁそうでしょうね。貴女は極端に世界が狭い。その貴女がこの世界で興味を引かれるものなど、『拾い物』と認識した何か以外はほぼないでしょう」



結構な言い草だが否定する要素もない。

右側の高い位置で一つに結い上げた髪を揺らしながら僅かに首を傾けると、一つ瞬きして菊花は肩を竦めた。



「とにかく、移動しましょう。貴女がどの地を選ぶか知りませんが候補は二つ上げてください。余興は私と貴女と梅香で行います。他の面々が居ない以上、二人が二箇所を担当することになるでしょう」

「判ったわ」

「順番の希望はありますか?」

「いいえ」

「なら一番遠いところからにしましょうか」



菊花が指を鳴らすと同時に移動が開始された。

瞬き一つが終わる前に移動し、場所を確認する。


その作業を五回繰り返し、私は選択した。


「決めたわ」

「そうですか。何処にしますか?」

「第一候補は火山帯。第二候補は湖よ」

「判りました。その旨、お伝えしておきます」



胸に手を当て頭を下げた菊花に頷くと、梅香からの伝心が入る。



『勇者君がお呼びだよ、伽羅』

『判ったわ』



梅香の言葉を同様に聞いていただろう菊花と一瞬だけ視線を絡め、力を解放すると勇者の下へと移動した。


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