第1028話 師匠はすごいんだから!
人間の私と、エルフのラッへが顔がそっくりな理由。それは、私の師匠グレイシア・フィールドの娘がラッへだからだ。
ラッへは元々『エラン』という名前だったけど、なんらかの理由で師匠は娘を死んだものと思ってしまったらしい。
生きていた彼女は自分を『ラッへ』と名乗り、『エラン』と名付けられた私を恨んで殺そうとして……
「……」
けれどラッへは記憶喪失になり、私との関係や自分の出生も忘れてしまった。
私が師匠に『エラン』って名付けられたのは、多分娘と顔がそっくりだったからだろう。
……あれ? よく考えてみればこれって私の名前の由来やラッへとの関係性であって、私とラッへの顔がそっくりな理由ではないような……まあいっか。
「私はエルフ族じゃなくて人間だけど……そうだね、少なくともエルフと過ごしてきた期間は、誰にも負けるつもりはないよ」
記憶喪失の私を拾ってくれた師匠、グレイシア・フィールドもエルフ。彼と、十年間を一緒に暮らしていたんだ。
エルフ族はなかなか人前に姿を見せないのなら、私ほどエルフと一緒に居た人間も居ないはず。
そう言うと、女の子は目を輝かせた。まあ目が見えないから多分だけど。
「でも、それならウーラスト先生に教わるのが早いんじゃない? エルフの教師なら」
「うーん、適任なのは確かだけど。学年が違う教師に話しかけるのって、難しいものだよ」
ウーラスト先生もまたエルフで、私たちのクラスの副担任。彼は一年生担当ではない。
この子の性格を見るに、私にも勇気を持って話しかけたのに……知らない大人に話しかけられるとも思えない。
まあ話自体なら、私が仲介になってもいいんだけど。
「エルフじゃないからこそ、教えられるのかも」
エルフ族は森の妖精と呼ばれるほどに、魔力の使い方が上手い。そのエルフが、魔力をうまく扱えない。
一般のエルフからしたら、なにがわからないのかわからない……という気持ちかもしれない。
ま、考えてもわからないか。なんなら、本人に会わせて話をさせてみるのが早い。
同じエルフに聞くならラッへもだけど、彼女は記憶喪失。人に教えられるとは思えない。
「とりあえず、即答はできないから……少し考えさせてもらっていい?」
「はい、もちろんです!」
「それと、キミが嫌じゃなかったら私からウーラスト先生に話をしてみようか?」
「え、いいんですか?」
「話をしたあとどうなるかは約束できないけど、もしかしたら同族のよしみで力になってくれるかもしれない」
やっぱり、教えられるならその力のことをわかっている人が教えたほうがいいよね。
数少ない同族同士、なんか良い感じに取り計らってくれるかもしれない。
……同じエルフ族って意味なら、ルリーちゃんもそうだ。だけど彼女はダークエルフ。
エルフに恨まれている可能性がある以上、いたずらに正体をバラすことはしないほうがいい。
「それじゃ、話がある程度纏まったら伝えたいから……お名前とクラスを教えてくれる?」
「はい! 私、カリュリアと言います。組は……」
エルフの女の子改めカリュリアちゃんの名前とクラスを聞いて、とりあえずその場は解散となった。
カリュリアちゃんはペコペコと頭を下げ、走っては立ち止まり頭を下げまた走っては頭を……を繰り返していた。
元気ないい子だ。
「まさか話しかけてきた初めての後輩が、エルフだったとはね」
「エルフ……エランちゃんの周りに居るからあまり実感湧かないけど、学園やこの国には珍しいよね」
「うん。
マヒルちゃんには話したと思うけど……エルフ族にはエルフとダークエルフがいて、その昔ダークエルフがとっても酷いことをしちゃって。
それで、エルフ族自体がみんなから恨まれているんだよね」
「エルフとダークエルフ。悪いことをしたのはダークエルフだけど、種族を一括りに見られてしまってエルフも恨まれてる……ってこと?」
私は、小さくうなずいた。
「エルフにとっては、同じ種族という理由だけで自分たちまで恨まれるなんて、とんだとばっちり……」
だからこそ、エルフはダークエルフを憎んでいる。ルリーちゃんの正体を明かせない理由がこれだ。
そもそも、何千年も前のこと(多分)で未だダークエルフが恨まれているのは、人々がダークエルフを憎むように『呪い』がかけられているらしい。
このへん、私もよくわかってないんだけどね。
「でも、エルフはだんだんと人前に姿を現すことができるようになってるんだよね」
「そう! それもこれも、師匠のおかげなんだよ!」
師匠は私を拾う前は各地を旅していた。最強の魔導士だとか、最高の魔導具技師だとか、凄腕の冒険者だとか……肩書きは色々あるけれど。
師匠があちこちで活躍するおかげで、エルフは悪い存在じゃない……って認識が強まっている。
だからこそ、ウーラスト先生やラッへも受け入れられているわけだしね。
「師匠はすごいんだよ! 鼻が高い!」
「エランちゃん、本当にお師匠さんのこと大好きよね」
「うん、大好き!」
もちろん人としてね(エルフだけど)!
男としては全然タイプじゃありません!




