第1027話 小さなエルフっ子っていいよね
さて、生徒会室を後にした私とマヒルちゃんは、人通りの少ない廊下を歩く。
普段は生徒であふれているけど、そういう日ばかりではない。今日がまさにそうだね。
「私たちで、心当たりに声をかける……かぁ」
真面目なマヒルちゃんは、先ほどシルフィ先輩に言われたことを考えているみたいだ。
この世界に召喚されたばかりの頃は、もちろん知り合いなんて居ない。兄であるヨルと一緒に居ることが多かった。
けれど、私やヨル、同じクラスのルリーちゃんを介していろんな子と話していって。友好を広めてきたのだ。
まあ、マヒルちゃんはあまり男子と話しているところは見ないし、そもそもヨルがあまり男子を近づけようとしていないけど。
「ま、あんまり深く考えることはないよ。軽い感じで声かけていこ」
「エランちゃん、そんなにドンと構えててなんだかすごい」
ふふん、すごいなんて言われちゃった。
とはいえ、考え過ぎてもよくないのは確かだ。
生徒会のメンバーはすでに三人。リーメイが候補の一人だとして、シルフィ先輩は何人か期待の新入生に目をかけているらしい。
少数精鋭で構成を考えているなら、逆に人数が増えすぎても……って話だ。
まあ、単純に優秀な大人数もそれはそれでいいんだろうけどね。
「こういうのは、考えすぎるとドツボにハマっちゃうんだよ。それに、肩の力を適度に抜かないと」
「……そうだね」
マヒルちゃんは、こくりとうなずいた。
それから二人で校舎を出て、女子寮へ向かって歩いていると……
「あ、あの!」
ふと、後ろから誰かに話しかけられた。
振り向くとそこには、目元が隠れているほどに前髪を伸ばしている女の子がいた。
……髪の色は、金色。そして、髪に隠れず見えるのは尖った耳。
白い肌。特徴的な瞳こそ見えないけど、この特徴を備えているのは……
「……エルフ?」
マヒルちゃんが、口にする。
そう、エルフだ。エルフ族の少女……ただ、この子は見たことがない。少なくとも、同級生じゃあないはずだ。
ならば、上級生? いや、ならば私が知らないのはおかしい。
だってこの学園には、いや国には……魔導大国でありながら、エルフ族は一人もいなかったのだから。
少し前に、ウーラスト・ジル・フィールドという教師……いや教育実習生か。が学園に赴任してきた。そして同級生に、ラッヘが転入してきた。
でも、それだけだ。ということは……
「一年生?」
「! は、はいっ」
こくこく、と激しく首を動かしている。首が取れてしまわないか心配だ。
まあ、いちいち考えなくてもスカーフの色見れば一発なんだけどね。
制服のスカーフの色で、その生徒が何年生かわかる。
去年は、一年生は赤色。二年生は黄色。三年生は青色だった。そして、スカーフの色は学年が変わる度に変わるのではなく、三年間一緒だ。
そのため、三年生が卒業したので自動的に次の新入生が青色になる。
「あのっ……エラン・フィールドさんですよね!」
その子は、距離を詰めて私を見上げた。
私は女子の中で小柄な方……だとは思うだけど、その私を見上げるってことはさらに小さい。
小さなエルフっ子か……これまでいなかったジャンルだ。いいね。
「うん、そうだよ」
「やっぱり!」
そうです私がエラン・フィールドです。答えるとエルフっ子は、まるで感激だと言わんばかりに口元を押さえていた。
そして、嬉しいのを表現してかその場で飛び上がる。あぁ〜、エルフっ子がぴょんぴょんするんじゃあ〜。
……っと、このまま見つめているのも一興だけど、そういうわけにもいかないね。
「それで、私になにか用かな?」
私はなるべく怖がらせないように、その子に笑いかける。
私自身怖いなんて思っていないんだけど、クレアちゃん曰く「エランちゃんは怖い」とのこと。
これまでの評判が尾ひれ付きで出回っている以上、どんな評価を持たれているかわからないのだ。
わかりやすいのが、入学早々"魔導学園の狂犬"なんて呼ばれたりもした。こんなかわいい女の子を捕まえて、失礼しちゃうよ。
「は、はい。私、魔導が上手くなりたくて……フィールド先輩に、魔導を教えてほしいんです!」
その子は、キラキラした目で……まあ目は隠れてて見えないんだけど……とにかくそう思わせる勢いと声色で、そう言った。
フィールド先輩、いい響きだ……という気持ちは一旦置いておいて。
私に魔導を学びたい……それは、私にとっても光栄なことではあるけど。
「ここ学園だし……私より教えるのが上手な人は、たくさんいると思うよ?」
そう。ここをどこだと思っている、魔導学園だ。魔導大国として名高いベルザ国の中でも、一番魔導に力を入れた学園だ。
そこなら、魔導を教えることに長けた教師もたくさんいる。
ぶっちゃけ、私は師匠や先生に教えられるばかりで、教える側がうまいは思っていない。
ダルマスの訓練に付き合う、みたいなことはあったけど、あくまでも訓練。教えたわけじゃない。
「……私、エルフだけど魔導の扱いがうまくなくて。先生も、エルフへの指導は経験がないらしくて」
……なるほどねぇ。エルフ族はこの国に居なかったほどに希少だ。この国に居れば接する機会なんてないだろう。
加えて、エルフ族は魔力との相性がいいので魔導に長けている……と師匠が言っていた。そんな相手にどう指導すればいいのか。
普通の人間の生徒を指導するのと、エルフ相手じゃやり方が違うってことか。
「私、聞いていたんです。黒髪黒目のエラン・フィールドという凄腕の先輩が、同族と仲良くしているのだと」
その同族、ってのはラッへのことか。彼女もエルフで、ひょんなことから仲良くなった。
エルフ族が少なく、だからこそ仲良くしている私に白羽の矢が立ったと。
「それに……その同族のエルフとフィールド先輩は、とてもよく似たお顔だということで。もしかしてエルフ族に連なる方なのかなと」
……あと、とある理由から私とラッへの顔がそっくりであることも、彼女の目にかかった一つらしい。




